煩悩ラプソディ
第25章 歩いて帰ろう/SO
少し前を行くふらふらと覚束ない足取りに、何度目かの溜息を溢した。
夜も深まったこの時間。
誰も居る筈のないアーケード街はシャッターが閉められ、静けさの中に不安定な足音が響く。
時折立ち止まったかと思うと空を仰ぎ『うー』だの『あー』だの声にならない声を出していて。
何よりそのバカになったボリューム。
「あ~くそっ!なぁんで俺がアイツに言われなきゃねんねーんだっ!」
「ちょっ、智くんっ…」
今日は会社の同期との飲み会だった。
俺と智くんは同期入社の中でも特に仲が良いほうで、これまでも何度かこんな状態の智くんを介抱したことはあったんだけど。
「なんでぇ俺があんっなヤツにダメだしされんだよっ!
オメェに一番言われたくねぇんだっ!ばかやろっ!」
「も~智くん声でかいって…」
静まり返ったアーケードには、一段とその罵声が響き渡って。
駆け寄って制止しようとしても、彼の怒りは治まるどころかエスカレートしていく。
今にもその辺に出してあるゴミ袋を蹴り飛ばしそうで、慌てて後ろから羽交い締めにしてみたら。
「あにすんだよっ、離せこらぁ!」
「分かったってば…ちょっと落ち着けって」
そう静かに投げかけると、初めこそ身を捩りながら抵抗したもののすぐに大人しくなって。
ふっと力が抜けたように縮こまってしまった肩を胸元に感じて、羽交い締めていた腕をそっと離す。
智くんの会社での頑張りは、俺が一番良く知ってる。
普段は何考えてるか分からない不思議な雰囲気だから、周りから誤解されることもよくあって。
外回りでサボることもあるし、真面目という言葉はとてもじゃないけど似合わない。
けど、任された仕事に関しては誰も文句を言えないほど卒なくこなしてるから。
それなりの評価をされている智くんに、納得がいかない同期のヤツらもいるわけで。
本人は特に気にしてないようだけど、こうして呑みの席で仕事の話となると急にスイッチが入っちゃうんだよなぁ。
俺の前からふらふらと歩いていったかと思うと、シャッターに片手をついて今度は大きな声で嘔吐きだして。
「えっ?うわっ、ちょ…智くんっ!?」
「おぇっ…だみだ…吐くぅ…」