煩悩ラプソディ
第25章 歩いて帰ろう/SO
シャッターの前で項垂れて座る智くんを見遣り、間一髪でそこに受けることができたゴミ袋の口を結んだ。
あぐらの中心に置いた水を手元で弄ぶその隣に、そっと腰掛ける。
…あ、またこの顔。
窺い見た横顔は、口を尖らせて明らかに拗ねたようなそれ。
一頻り喚いて、吐いて、少しすっきりした後のこの智くんの顔。
俺に迷惑を掛けたことを今更ながら後悔してるのか、咎められた子どものようにしょんぼりしていて。
…けど、たまに見るこんな智くんの顔が、どうしようもなく可愛く思えたりするんだよな。
なんて、智くんには絶対言えないけど。
「…大丈夫?もう立て、」
「俺ってさぁ…」
その横顔を見つめながら問いかければ、被せるように智くんからぽつり声が漏れた。
「そんな…ダメなヤツかなぁ…」
こちらを見ないまま俯いて発せられた声は、今にも消え入りそうに小さくて。
「べつに誰にも迷惑かけてねぇと思うんだけどなぁ…」
アーケード街の蛍光灯に照らされて浮かぶ横顔は、全部は見えないけどその物憂げな様子は十分に伝わる。
伏せられた睫毛がぱちぱちと瞬いて、その回数が多くなり。
え…泣いてる?
そう思って顔を覗き込もうとした時、同じタイミングでこちらを向いた智くんとやけに距離が近くなって。
至近距離でなぜか数秒見つめ合って、急に心臓が高鳴り出す。
な…なに?
「…翔くん、」
「はい…?」
「翔くん…」
「…な、に?」
いきなりとろんとした瞳でじっとこちらを見つめる智くんに、一体俺はなにを言われるんだろう…?
必要以上に緊張してしまっていると、ふいに首元に温かい重みが圧し掛かってきて。
えっ…
ぎゅっと俺にしがみつくように抱き着く智くんの耳が、俺の頬にぴったりとくっついている。
突然のことにされるがままの俺の耳に、ぽつり呟く声が届いた。
「ごめんねぇ、こんな俺でぇ…」
「…っ、え?」
「ごめんねぇ…翔くぅん…」
掠れたその声は確かに届いて、ひたすらに『ごめん』と言いながら俺に抱き着く智くん。