無料で楽しめるちょっと大人のケータイ小説

こんなの酔っ払いの泣き言だって分かってるのに、智くんのその言葉に胸がきゅっと苦しくなって。



智くんはダメなヤツなんかじゃない。


誰も見てないところで努力してんの、俺は知ってるんだから。


なんで俺に謝んだよ。


謝んなくていいんだよ。


俺は分かってるんだって。


俺は…


いつだって智くんを、見てるんだから。


だから…



ずっと秘めてきた想いを思わず打ち明けたくなるのを、既のところで堪える。


「…大丈夫だって。謝んなってば」

「だってぇ…俺ぇ、こんなだしぃ…」

「そんなのわかってるわ。何を今更」


肩口でぼそぼそと呟く声を聞きながら、この何とも言えない真夜中のおかしな空間に笑みを溢した。



…こうゆうところも、好きなんだよ。



抱き着かれたままの体勢で、ゆっくりと呼吸を繰り返すこの温もりにそっと投げかける。


「智くん、俺さ…
智くんが同期で良かったよ、マジで」

「…なんでぇ」

「だってさ、智くんみたいなヤツが先輩だったらめんどくせぇもん」

「…やっぱりぃ、」

「後輩だったらもっとうぜぇかも、」

「…」

「同期だから…同僚だからさ、やってけんだよ、きっと」



そう、自分にも言い聞かせて。


実ることもなければ花を咲かせることもないこの想いは、膨らんだ種のまま大切に胸にしまっておくから。


「だから…頼ってよ、俺を。こんな風にさ。
いつでも付き合うから」



それで傍に居られるなら。


智くんに必要とされるなら。


それで、十分だから。



「ね、智く…」

「……ぐぅ～」

「……」


動かないと思ったらやっぱりだった。
これもお決まりのパターン。


体を揺すってなんとか立ちあがらせると、目を瞑って呻きながら背中に覆い被さってきた。


脱力した体を抱え直し、肩口にしなだれた心許ない腕を首へと誘導し。


ぎゅっと巻き付いたのを確認して、とぼとぼとアーケード街を歩き出す。


すーすーと規則正しい寝息を耳元に感じながら、背負った温もりに想いを馳せた。



大丈夫だよ、智くん。


智くんのことは、俺が知ってるから。


俺しか、知らないから。


他のヤツらになんか、知られてたまるかよ。


だから、これからも傍に居させて。



…大好きだよ、智くん。



end