煩悩ラプソディ
第26章 君がメロディ/AO
大ちゃんは多分、気付いてる。
もうそろそろ、自分が追い出されるんじゃないかってことに。
ケガの後遺症は多少あるものの、もうとっくに日常生活を不自由なく過ごせるまでに回復しているし。
もう問題なくこれまで通り働くことだって出来るはず。
今までは、ケガをさせてしまった後ろめたさがあったけど。
いくらお人好しの俺だって、大人の男を一人養い続ける為に毎日働くなんてまっぴらごめんだから。
ここ最近、俺が口煩く仕事探しについて言うもんだから、今みたいに躱されることが多くなった。
それに、仕事もしてないのにいつも昼間はどこかへ出かけてるみたいで。
俺が仕事から帰ってくる時には居るから、日中にどこかで何かをしているらしい。
それを追求しても、いつもうまく逃げられる。
同居人に、ましてや養ってもらってるヤツに言えないことなんてあるわけ?
一緒に住んでいるのに、俺は大ちゃんのことをほとんど知らないんだ。
やっぱりこんな状況、どう考えたっておかしい。
情が湧いたとは言え、素性も知らない人間とこれ以上生活するなんて普通じゃないよな。
とにかく…早く仕事探させて出てってもらおう。
そう心に決めて、出来あがった二人前のチャーハンをかき込んだ。
***
「ただい…うおっ!」
「…おかえり」
帰宅してきた大ちゃんを玄関で待ち伏せて、目で中に入るよう合図する。
只ならぬ空気を感じたのか、恐る恐るリビングのラグへと腰を下ろした。
向かい合って座ると、正座をした大ちゃんが元々の猫背を更に丸めて俺を窺う。
今日こそは…ちゃんと話さなきゃ。
意気込んですうっと息を吸った時、パチン!と軽い音が部屋に響いた。
目を遣れば、大ちゃんが顔を伏せた前で両手を合わせていて。
『ごめんっ!』と続けたあと、そろりと顔を上げて口を開く。
「もうちょっと…待って、くんねぇかな…。
こんなこと…言える立場じゃねぇのは分かってんだけどさ…」
膝の上で握られた拳に、ぎゅっと力が込められて。
「相葉ちゃんの迷惑になってんのは…分かってんだ。
だけどさ…あと少し、ここに置いてくんねぇかな…」
今まで見たことのない必死さでそう言われて、準備していた言葉は何も出てこなかった。