煩悩ラプソディ
第28章 風の宅配便/ON
ふいに、傍らのスマホがフローリングの上で震えた。
あ…
すぐに画面をタップすれば、久し振りのメッセージに鼓動が早くなる。
『よう。荷物届いたか?
そろそろじゃねーかなと思って連絡してみた』
短く書かれたその文面に、思わず顔が綻んで。
『ありがと。さっき届いたよ。
野菜こんなにたくさん食べきれないかも』
すらすらと文章を打ち送信すれば、すぐに既読が付き。
『おい、こら!全部食えよ?
お前ほっそいからちゃんと食わねぇとダメだぞ』
「…ふふっ」
あぐらの中心に置いたスマホを見つめつつ、背中を丸めてやり取りに没頭する。
差し込む陽射しがフローリングを白く照らして。
大野さんのとこも、こんな良い天気だったらいいな。
『あとな、もう一個荷物来るから。
時間指定してるからそろそろだと思うんだけど』
何回目かのやり取りで、大野さんからそう切り出され。
『わかった。なに?なんの荷物?』
『それは来てからのお楽しみ~』
と、意味不明なハートが語尾に付いていて不思議に思っていると。
今日二度目の軽いチャイムが鳴り響いて。
来たか、と思って玄関のドアを開けた時、そこに現れた姿に心臓が止まりかけた。
「よぉ、にの。元気かぁ?」
屈託のない笑顔と、呑気な声。
何ひとつ変わらない、あの人が目の前に。
「…おおのさ…なんで、」
「なんでって…言ったろ?見してぇもんあるって」
その言葉に、ちょっと前の大野さんとの電話を思い出した。
そういえば、そんなこと言ってたっけ…
うまく整理できない頭で、なんとか記憶を辿って。
「だから来たんだよ、俺。
そろそろお前寂しがってんじゃねぇかと思ってさ」
「…え?」
「俺の顔、見たかったろ?」
『そうだろ?』と笑う目の前のドヤ顔に、堪らなくなってぎゅっと抱き着いた。
少し驚いた大野さんは、ふふっと鼻で笑いながら背中を撫でてくれて。
「…今日は寂しくねぇぞ。俺がいるから」
「…うん、」
合わさった鼓動がとくとくと響く中、同じ高さにある首元に顔を埋める。
…最初から、分かってた。
この想いは、きっと止められないって。
だからやっぱり…
ちゃんと、伝えるよ。
「…大野さん、俺ね…」
end