煩悩ラプソディ
第28章 風の宅配便/ON
あの電話を最後に、大野さんからの着信は無くなった。
メッセージも、荷物を送る為に俺の住所を聞いてきたくらいで、最近は全く来なくなって。
上京したてで余裕のない俺を、気遣ってくれてるのかな。
なんて、都合の良い解釈したりして。
もしかしたら、遠くへ行ってしまった俺のことなんて、もう気にも留めてないのかも。
…けど、それならそれでいいんだ。
いつかきっと、大野さんへの想いを断ち切れる日が来るはずだから。
そう信じるしか、ないんだ。
サッシ窓からは、初夏の訪れを感じさせる陽射しが降り注いでいて。
休日のスタートは、一週間分溜まった洗濯物を回すことから始めた。
ゴトゴトと洗濯機を回しつつ、これまた溜まった食器類を洗っていると。
軽いチャイムが部屋に鳴り響いて、短い廊下を玄関へと歩く。
ドアを開ければ、宅配便の兄ちゃんが重そうに段ボールを抱えていて。
受け取ると、ずっしりとした重みに思わず落っことしそうになり。
ギリギリのところで部屋まで運び入れ、ドサッとその段ボールを置いた。
差し出し人は、大野智。
大野さんの字で宛名の部分に書かれた『二宮和也様』の文字に、なんとも言えないこそばゆさが込み上げる。
同時に、そんな些細なことにすら嬉しさを感じている俺は、情けないほど諦めの悪いヤツ。
座り込んで段ボールを開ければ、宣言通りたくさんの野菜が顔を見せた。
そのどれも大野さんが丹精を込めて作ったんだと思うだけで、胸がいっぱいになる。
一つ一つ丁寧に取り出していくと、隅の方に小さな瓶が見えて。
…あ、母ちゃんの梅干し。
そういえば、上京する時に持っていけって言われてたのに、俺がいらないって言ったんだっけ。
多分、大野さんが母ちゃんに言ってくれたんだろう。
俺に荷物送るけどなんか入れるか、って。
そうゆうさり気ない優しさも、あの人の良いところなんだ。
梅干しの瓶を見つめながら、また大野さんのことが頭に浮かんでしまって。
…やっぱり、忘れようなんて無理みたい。
どうしたって、あなたのことが頭から離れないよ。