煩悩ラプソディ
第29章 消費期限は本日中/AN
この時季になると、いつも見慣れた店内がちょっと華やかになる。
星やベルのキラキラした装飾が壁に貼り巡らされ、天井にまで至っていて。
レジにも心ばかりのミニツリーがちょこんと居座り、その存在だけでこれから訪れるイベントを充分に演出していた。
12月に入り、街はすっかりクリスマスムード。
バイト先のこのコンビニも勿論、率先してそのイベントに乗っかる勢いで。
ケーキやチキンの予約対応に追われる中、ふと昨日のにのちゃんとのやり取りが思い出される。
他愛ないメッセージの最中、ふいににのちゃんがこう切り出した。
『もう12月だもんね。
あ、もうすぐ相葉くんの誕生日だね。
24日はバイトなの?』
『にのちゃん覚えててくれたの!?
ちょー嬉しい!
24日はね、バイトだけど夕方には上がれるよ』
『もちろん。
クリスマスは相葉くんの誕生日、って覚えてるから。
バイトなんだね。誕生日、どうしよっか?』
『お祝いしてくれるの?
嬉しいよー!
どうしよっか?にのちゃんちは?だめ?』
『家でいいの?外でご飯とかじゃなくていい?』
『いいよー。だって外はどうせクリスマスじゃん』
『それもそうだね。じゃあうちでお祝いしよっか。
あとね、プレゼントは…リクエストありますか?』
『えープレゼントとかいいのにー!
じゃあねぇ…にのちゃんがいい!
なぁんてねー♡』
…って送ってから、既読にだけなってやり取りは途絶えたんだ。
俺またやらかしたかなー…。
冗談のつもりだったのに怒らせちゃったかなぁ…。
レジ対応を卒なくこなしつつ、頭の中はにのちゃんのことばかり。
冗談って言ったけど、半分は本気。
だって…
俺達付き合ってもうすぐ1年になろうとしてるのに、まだキス止まりなんだもん。
前に遊園地で俺がやらかしてからは、にのちゃんとそうゆう雰囲気になかなかならなくて。
なんとなく警戒されてるような気もしてるし…。
だけど…
正直もう、キスだけじゃ足んないんだ。
俺だって一端の健全な男子なんだから。
好きな人とそうなりたいって…いつも思ってるんだよ。
…にのちゃんはどうか分かんないけどさ。
放っといたら次々に浮かんでくるもやもやを打ち消すように、混み始めたレジの対応に精を出した。