煩悩ラプソディ
第29章 消費期限は本日中/AN
学年会議を終え、職員室へ続く廊下をとぼとぼと歩く。
胸元に抱えた会議資料を顔に近付けて、隠すように今日何度目かの溜息を溢した。
…ついに、この時がきたんだ。
今までどうにかやり過ごしてきたけど、いつまでもそれでいい訳がない。
昨日の相葉くんとのメッセージのことが頭から離れなくて、正直授業中も会議中もそれどころじゃなかった。
俺だって…
相葉くんとそうなりたいって思ってる。
キスは…たまにするけど、まだどきどきするけど…
もっとして欲しいって、思うこともあるし…。
でも…いざ相葉くんとのことを考えると…
ううん、考えただけで…もう、どうにかなっちゃいそうで。
先に進みたくても、なんか怖くて…
俺のほうが年上だから、そうゆうこともちゃんと考えなきゃいけないのに。
多分あのメッセージは、冗談と本気が入り混じってる。
無理強いなんて絶対しない優しい相葉くんだから、あんな風におどけてみせたに違いない。
ここはもう…
覚悟、決めなきゃ。
だって、誕生日だもん。
一緒に過ごす、初めての誕生日だから。
初めての…
「わっ!」
「っ、うわっ!」
急に背後から両肩を叩かれ、抱えていた資料をバサバサっと落としてしまった。
「あ~もう松本先生やり過ぎだって、」
「ふふっ、いやそんなに驚きます?」
後ろを振り向けば、ニヤニヤしながら資料を拾おうとしている松本先生と、苦笑しつつこちらへ歩いてくる大野先生が。
「なんですかっ…」
「あ~ごめんなさい。いや、あからさまに落ち込んでるから元気出して貰おうと思って」
はい、と拾い上げた資料を手渡され、ニヤっとその口角が上がる。
「なに、また悩んでんの?相葉絡みか?」
続いて、大野先生にもニヤニヤした笑みで覗き込まれ。
「別に悩んでないし落ち込んでませんっ…」
早口で言い捨てて、赤くなりそうな顔を隠すようにそそくさと歩き出す。
「悩みあるなら聞きますよぉ~」
すると、背後から松本先生の楽しそうな声がして。
こんなこと言えるわけな…
…あ!
くるっと振り返り、松本先生の元へ足早に戻る。
「あのっ…相談が、あるんですけど…」
窺うように見上げると、『え?』と顔を前に出して驚いた顔の松本先生と目が合った。