煩悩ラプソディ
第29章 消費期限は本日中/AN
迎えた、12月24日。
クリスマスイブの夕方に、コンビニにこんなに人が来るものなんだろうか。
一気に混み始めた店内を見て、そろそろ上がる時間なのに後ろめたさが募り出す。
結局、怒らせてしまったと思ってたにのちゃんへのメッセージは、翌日の夜にちゃんと返ってきた。
寝てしまっててごめんねという言葉で始まり、それからは至って普通のやり取りが続き。
あれから今日の俺の誕生日まで、あのコトには一切触れられることはなく。
…いわゆる、スルーされたってことだよね。
まぁ、怒らせてなかっただけいいけどね…。
レジに並ぶ行列にあくせくと対応していた時、自動ドアが開きまた一人客が入ってきて。
チラリ視線だけ入口に向ければ、見知ったその顔と目が合った。
え、翔ちゃん…!?
ニッと一度だけこちらに笑みを向け、澄ました顔で店内に進んでいく。
そして行列が落ち着いた頃を見計らうように、翔ちゃんがレジに向かって歩いてきた。
「よぉ、お疲れ」
「え、どうしたの今日は」
「いや別にフツーの買いもんだけど?」
そう言ってまたニッと笑う翔ちゃんは、襟元にファーの付いた暖かそうな黒のブルゾンをカッコ良く着こなしていて。
いかにも"今からクリスマスデートです"といった雰囲気。
「デートなんじゃないの?
いいの?こんなとこ来て」
「いや、早く着きすぎちゃってさぁ。
さみぃから中入ろうと思って」
「ふふっ、なに暇つぶし?」
「ちげーよ。雅紀に渡すもんもあるしな」
言い終えて、レジ台にガサっと置かれた小さな紙袋。
「誕生日プレゼント。俺と松潤から」
驚いて目を上げれば、ポケットに両手を突っ込んだ翔ちゃんが得意気に鼻を鳴らす。
「わ…ありがと、」
「気に入るかわかんねぇけど」
ふふっと笑いながら紙袋に視線を落とし、レジ横のホットドリンクコーナーから缶コーヒーを二つ取ってレジに置いて。
「いい誕生日になるといいな」
と笑う翔ちゃんが、やけにカッコ良く見えた。
自動ドアから出ていく背中を見送って、貰ったプレゼントをレジの下に隠し。
『翔ちゃんも楽しいクリスマスになりますように』と心の中で呟き、また混みだしたレジに小さく意気込んだ。