煩悩ラプソディ
第30章 超完璧溺愛主義/SM
ドアの前に立ったままのその顔は、俺のイライラした心情を逆撫でするかのように緩まっている。
「…なんなんだよ、何がおかしいんだよっ!」
「え?だって…何で翔がここに居んのかなって思って」
口角を上げたままゆらりと動き出すと、縒れたスーツの襟を正しながら近付いてきて。
「勝手に来ちゃダメでしょ?ここ男子校だよ?」
「…は?」
「翔みたいな可愛い子、すぐ目付けられちゃうじゃん」
口角は上がったまま、急に鋭くなった眼差しから目が離せない。
気付けば、傍の書架に追い詰められていた。
「…分かってる?」
「な…に、」
至近距離で囁かれたと思ったら、急に噛み付くようなキスに襲われて。
なっ…!?
体は完全に背後の書架に押さえつけられ、身動きを取ろうにも全く動けない。
まるで縫い付けられたように、松潤の手によって指一本も動かせなくて。
手加減無しでどんどん激しくなるキスに、思考まで止められそうになる。
なにっ、考えてんだよっ…!
俺のことっ…なんだと思って…
必死に顔を振ってようやく唇から逃れ、逸らした顔を再び向けて思いのままに叫んだ。
「なんっなんだよっ!もう分かんねぇよ俺っ…
俺のことっ、ほんとにっ…!」
ほんとに…
好きなのかよっ!!
「ぁー…ごめん、またやっちゃった」
ぽつりそう聞こえた瞬間、捉え続けていた眼差しがふっと弱まり、いつもの俺を見る優しいそれに変わったのが分かった。
「…翔があんまり可愛いからさ、ついスイッチ入っちゃうんだよね」
そう言うと、俺を押さえていた体が少し離される。
「ねぇ…何を訊こうとしたの?」
「はっ…?いや…」
「俺のこと、なに?」
今度はさっきと打って変わって、誘うような瞳を向けてくる。
その熱い眼差しに、不覚にも胸がきゅっと締め付けられて。
「言ってごらん?」
「……るせぇ、」
「翔?」
「っ……ぉ、俺の…」
「うん?」
「俺のことっ…ちゃんと、好き…なのかよっ…」
近付いてくる整った顔に、視線を合わせられずに顔を逸らすと。
「…好きに決まってんじゃん。
好き過ぎて…おかしくなりそうなのに、」
やけに色香を帯びた声でそう囁いた松潤に顔を向ければ、熱っぽく雄々しい視線と絡み合った。