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煩悩ラプソディ

第32章 あいつがライバル/AN






あの遊園地での一件以降、にのは何かにつけてこんなことを口にするようになった。


『優太元気にしてる?』

『最近優太に会ったりしてんの?』

『優太俺のこと覚えてるかな』


口を開けば『優太』の名前。


挙句には、


『また優太に会いたい』


なんて、あんなに子ども嫌いだったにのがそんなことを言うまでになったんだ。



俺にとってみりゃ…複雑だよ。


だってさ、優太は確実ににのが大好きだし、にのはにので完全に優太に絆されちゃってるし。


何で急に優太のことそんなに言うんだ、ってにのに聞いたことがある。


そしたらにのは、


『だってあんなストレートに俺の事好いてくれてんだもん。そりゃ嬉しいでしょ』


って、だらしなく笑いやがった。



そんなの、俺だってそうだし。


ただ言葉にして言ってないだけだし。


そんなの優太が生まれる、いやその母親が父親と出会う前からずっと想ってるし。



けど、例えばさ。
俺が今更にのに『ずっと好きだった』なんて言って、急にストレートな行動に出始めたらどうする?


そんなのにのは絶対嫌がるに決まってる。
にのは変化に敏感だから。


もし俺の気持ちが抑えらんなくなって爆発して、今までの距離感を保てなくなったら。


そしたら俺はきっとにのに嫌われる。
嫌われないにしても、確実に一線を引かれる。



あの観覧車で優太に打ち明けたにのの気持ちは、多分紛れもなく本心だと思うよ。


でもさ、それ…
俺には直接届いてないから。


だから怖いんだ。
綱渡りなんだよ、今だって。



こんな胸の内を誰かに打ち明けたとして、あんな幼児に何をそんなに対抗心燃やしてんだって言われるかもしれないけど。


違う。


あいつはただそこいらに居る幼児じゃない。


俺にそっくりってとこが物凄く厄介なんだ。


だから複雑なんだって。


何で俺じゃなくて優太なんだよ。



ほら、また今日だって…

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