煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
いつものように楽屋の定位置に陣取る面々。
わざと避けるようにテーブルの方に座ってテレビを観てたのに、ふらりと近付いてくる気配を後ろに感じて。
「ねぇ相葉さん、」
…来た。
ガタっと椅子を引いて隣に座ったにのは、テレビは観ずに手元のゲームに指を動かしだす。
週に一度のレギュラー番組の収録。
その日には必ず、にのからこんなお願いが直接投げられるんだ。
「ね、優太と会わせてよ」
もはや"会いたい"じゃなく"会わせて"になってんだ、最近は。
そしていつもにのはこれを言う時、俺の事は一度も見ない。
ゲームに意識を持ってってるか、もしくはスマホを弄りながらサラッとそう口にする。
なんだよ、お願いなんだろ。
せめて目でも合わせろよ。
って内心ムッとしてるけど、俺の方こそそんなこと言われてる何とも言えない顔をにのに見られなくて良かったって思ってるクチで。
何度もこうしてにのにお願いされて、何かと理由をつけて断ってきたけど。
そろそろ断る口実も尽きてきた。
このことはまだ、優太の母親には勿論一度も伝えていない。
もしにのが優太に会いたがってるなんて本人に言ったら、それこそ超ハイテンションで大喜びするに決まってんだ。
もうそんな画が浮かぶもん。
そんなの絶対ダメ。
これ以上優太がにのを、にのが優太を好きになってもらっちゃ困る。
俺の居ないとこで二人の世界が創られていくなんてそんなの絶対耐えられない。
なんて断るか…
「ねぇ聞いてる?」
「っ、え?」
「いや優太。いつなら会えんの?」
「あ…それは…」
あからさまに言葉を濁す俺に、こちらに目を上げて眉を顰めるにの。
やばい…そろそろバレるかも。
「相葉さんの都合?」
「…え?」
「相葉さんの休みが俺と合わないからってこと?」
窺うような上目で、少し尖らせた口からそう発せられた言葉。
…俺の休み?
え、なんで?
「え…待って。優太と会うってさ…」
「ん?」
「二人で会うんじゃないの…?」
「は?」