煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
翌日、従姉からの連絡によって優太とは昼前に別れることになった。
俺の家で落ち合うことになったから、にのとはここでさよならだよって優太に言って聞かせたんだけど。
勿論そんなこと聞き分ける筈もなく、思いっきり駄々をこねた結果にのも一緒に優太を見送ってくれることになり。
車に乗る時『優太とはしばらく会えないかもしれないから』って、優太のチャイルドシートの隣に乗り込んだにの。
ルームミラー越しに楽しそうに笑うそんな二人の姿を覗き見つつ、じわじわと込み上げる優越感。
きっとこれもにのなりの照れ隠しで。
想いが通じ合ったからって、俺たちの関係が大きく変わることはないかもしれないけど。
でも、端々に感じてた"かもしれない"不安定な綱渡りをしなくて良くなったのは確かで。
これはもう完全に…俺の大勝利だよね?
俺の小さい頃とそっくりで、そして俺と同じようににのが大好きな優太に若干心が痛くなったけど。
結果的に優太は、俺たちの恋のキューピッドみたいなもんだから。
にのも俺も、優太にはほんとに感謝しなきゃ。
だから今だけは…
優太に俺のにののこと貸してあげる。
俺の家の駐車場でにのと一緒に優太を見送る。
優太は最後までにのから離れようとしなくて、足に纏わりついて泣きそうににのを見上げてて。
そんな優太に優しく微笑みかけてしゃがみ込み、目線を合わせてよしよしと頭を撫でたら。
「またあえる?」
「ん。会えるよ」
「ほんと?じゃあ…」
『やくそく!』って言ってにのの唇にぷちゅっとくっつけられたぽってり小さい唇。
あっ…!
うん…いや、まぁいいや。
全然いいよ。大丈夫、大丈夫。
昨日俺が先にもらってたし。
なんて一人で納得してその光景を見ていると、笑いながら唇を離したにのが耳を赤く染めて俺をチラリと見上げた。
その何か言いたげな瞳に優しく微笑み返せる俺は、随分余裕が出てきたような気がする。
想いが通じ合うことって、こんなにも人を強くさせるんだな。
今まで生きてきて、こんなことを思ったのは初めてかもしれない。
それくらいの存在なんだ。
俺にとってのにのって。