煩悩ラプソディ
第32章 あいつがライバル/AN
まさかにのがそこまで俺のことを想ってくれていたなんて。
ずっとずっと、俺の一方通行だと思い込んできたこの道のり。
でも度々感じる"かもしれない"不確定要素にいちいち舞い上がっては落ち込んでを繰り返し。
そんなにのの隠された想いにも気付かずに。
にのを傷付けたくないと思いながら、本当は自分が傷付くのが一番怖くて。
せっかく交差するはずだった道路を完成間近で俺の方から塞き止めちゃったってワケか…。
それに…
"優太がライバル"なんて対抗心燃やしてたのに、にのは優太に俺の影を重ねてたんだ。
にのの中には、ちゃんと俺は映ってた。
最初っからライバルなんて居なかったのかも。
…なんて、今更思ってみたりして。
「素直じゃないからねぇ…ほんと。回りくどいことしたって相葉くんには届かねぇよって言ってたのにさ。
…まぁ良かったんじゃないの?結果的に」
そう言って楽しそうに覗き込んでくるきれいな瞳。
そっか。
松潤にも相当心配かけてたんだ、俺たちのことで。
…ごめんね。
いや、ありがとう。
「で?どっちから言ったの?」
「…はっ?」
「どっち?相葉くん?ニノ?」
ぐっと距離を詰められて何を言われるかと思ったら。
相変わらず楽しそうにニヤニヤした笑みを向けられて思わず言葉に詰まってしまう。
そんな時、丁度のタイミングで撮影再開を告げるスタッフさんの声が響き渡り。
「あ、ざんね~ん」
と、悔しそうに唇を噛んでトンッと立ち上がった松潤。
内心『助かった…』と思いながらつられて立ち上がると、隣に並んだ整った顔がこちらを振り向き。
《お》《め》《で》《と》《う》
と無音で口が動いた後、ニッといたずらっぽい笑顔が広がって。
『お願いしまーす』と言いながらスタジオに入っていくその後ろ姿に、緩まる頬を抑えきれずに笑みを返した。
追いかけるように一歩を出そうとした時、テーブルに置いていたスマホが振動してふと目を遣れば。
画面に通知された見慣れた、だけどそれだけで愛おしい名前にまた頬が緩んで。
《今日会える?》
と短く綴られた"らしい"メッセージに想いを込めて指を滑らせた。
《俺も会いたい。会いに行くから》
end