煩悩ラプソディ
第33章 お熱いのがお好き/AN
レギュラー番組の収録を終え、一人の楽屋で素早く帰り支度をする。
ものの5分程で済ませたそれは手慣れたもので。
メンバーの居ない楽屋なんて、長く居たって何の意味もないから。
それに…
キャップをきゅっと被り最後に部屋を見渡して、元のままなのを確認すると足早に楽屋を出た。
廊下を歩きながらスマホを取り出す。
期待と不安が入り混じった指でボタンを押せば、暗い画面が一瞬で明るくなって。
だけど、その画面には新着のメッセージは通知されていない。
…まだ来てないか。
一気に沈んでしまう気持ち。
堪えようとしてるのに、勝手に出てきてしまう溜息。
いやわかってるよ。
相葉さん今一番忙しいんだもん。
…わかってるって。
週に1回仕事で会えるだけでもいいじゃん。
俺だってそんな聞き分け悪いほうじゃないし。
うん、そうだよ。
頑張ってんだから、相葉さんは。
今はそっと見守ってやんのが俺の役目だろ。
と自分に言い聞かせつつも、辿るのは相葉さんとのLINEのトークルーム。
そのメッセージのやり取りは昨日の昼で終わっている。
《早くにのんち帰りてー!》
の文の後についた笑顔の絵文字。
まるで相葉さんの笑顔みたいな満面の笑みで、ただ無機質に俺に笑いかけてくる。
この人はメッセージでも俺のことを不安にさせないようにしてくれてるんだ。
だから。
ほんとは《早く帰ってきてよ》って打とうとして止めたそこに、《頑張って。相葉さんならやれる》って俺も笑顔の絵文字で返した。
歩きながらスクロールしつつ、ぼんやりと相葉さんとのメッセージを眺めていると。
「ニノくん、」
背後から声を掛けられ、慌ててスマホを隠して振り返った。
そこには、番組で一緒だった芸人さんが居て。
「今日この後空いてない?後輩芸人と飲むんだけど一緒にどう?」
と誘われ。
今日は少し早く収録が終わったのもあって、いつもは急な誘いにはあまり乗り気じゃないけど。
相葉さんと会えない寂しさが募ってたせいか、二つ返事でOKして一緒に局を出た。