煩悩ラプソディ
第34章 君の瞳に恋してる/AN
その瞬間、頭に雷が落ちたみたいな衝撃が走ったんだ。
友達と誘い合わせて行った小さな野外コンサート会場。
色んなアーティストが順に出てきては会場を熱く盛り上げる。
俺も友達もノリノリで、飛んだり跳ねたり拳を突き上げたりして最高に楽しんでたんだけど。
途中で急にアイドルっぽい奴が出てきて、今までのノリノリだった流れをぶった切られた感じがして。
「なんだよシラケんなー!」
最高潮に上がったままのテンションで友達とぶーたれてたら、ポップな曲調のメロディが流れ出して思わず吹き出した。
「なんだこれ!ちょーアイドルじゃん!」
弾けるような何とも可愛らしいメロディを聞きながら、一体どんな奴が唄ってんだと改めてステージに目を遣った時。
っ…!!
煌びやかなライトが交差するステージの中央に居たその子から、目が離せなくなって。
唄っていたのは可愛らしい男の子のアイドル。
歳は多分俺と同じか少し下くらいだろう。
売り出し中らしきその子は、もちろんビジュアルも申し分なくて。
真っ白な肌と綺麗な艶のある黒髪。
にこやかな笑みを浮かべるその瞳は、薄茶色でキラキラ輝いてて。
体の線も細く背も小さくて、つんと突いたらふにゃんとよろけてしまいそうな感じ。
曲の振り付けも独特で、まるで女の子のアイドルがやるような可愛らしいもの。
大きく振りかぶって指を差したり、くるっと回ってみたり。
バックダンサーを従えてステージ上を移動しながら、ポップなその曲調に合わせて跳ねる様に踊るその子。
しばらく食い入るようにずっと見てたその子の視線が、ふいに俺の方に向いたと思ったら。
しなやかな指先がひらひらと可憐に舞って、ぱちっとウインクが飛んできた。
その瞬間、頭の上に雷が落ちたみたいな衝撃がほんとに走ったんだ。
まるで時が止まったように。
あれだけ騒がしかった会場の音も、嘘のように聴こえなくなって。
それから何曲か唄ったけど俺の方には全然来てくれなくて、ただただその子が飛ばしたウインクの余韻にどっぷり浸っていた。