煩悩ラプソディ
第5章 愛情注ぐ理由はいらない/ON
「お前…いいの?」
「ん…?」
「ほんとに、いいの?」
「…なにが?」
目の前の大野さんも熱に浮かされたような顔をしていて。
そのトロンとした瞳で投げかけてきた。
「その…普通のエッチじゃないよ?
女の子じゃないから…」
眉を下げて窺うように見つめられる。
…そんなの、わかってるよ?
男同士のエッチの仕方くらい…。
大野さんと求め合いたい、って感情が湧き上がってからそういう術は情報として入れていたから。
一度だけ、練習してみたことだってある。
…自分の指で。
とてもじゃないけど、怖くてできなかった。
あまりに未知の感覚すぎて勇気が出なかった。
でも、大野さんだから。
俺は…大野さんとだったら、怖いことも痛いことも。
全部受け止められるような気がしてる。
「…わかってるよ、そのくらい…。
だから…早くきて、」
大野さんの右手をグイッと引き寄せてギュッと抱きついた。
この熱い体と、高鳴る心臓と、ジンジンする疼き。
それに、言い表せない恐怖と期待を。
早く大野さんと分け合いたい。
「うん…優しくするね?」
耳元で囁かれ抱き締められる腕に一瞬ギュッと力が込められたかと思うと、すぐ離れた。
ラグに置かれたショルダーバックから、大野さんがゴソゴソと何かを取り出す。
「これで…大丈夫だから、」
潤滑剤のジェルチューブをコトっとテーブルに置いて、赤い顔でチラッとこちらを見る。
ちゃんと準備してきたんだ…。
まさかビールと一緒に買ってきたの?
今日に懸けた大野さんの色んな覚悟が見え隠れして、どんどん愛しさが込み上げてくる。
俺と同じように怖くて、でも欲しくてたまらないんだ。
「…お手柔らかにお願いします」
「…うん、あんま余裕ないけど…」
ソファの上で向かい合って、お互いの顔を見て笑みが溢れた。