煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
「お疲れー、あとよろしく」
「はいっ、お疲れさまでした!」
練習後、体育館の片付けをする俺たちの前を二年生がぞろぞろと帰っていく。
その度に手を止めて挨拶を返しつつ、残った片付けの段取りに思考は傾いていて。
とっとと片付け終わらせなきゃ。
だって今日は…
一緒に帰る約束してるんだもん。
せかせかとボール籠を運びながら、周りの同級生に指示を飛ばす。
コートの中でも比較的リーダーシップを取っている俺の言う事に、何も言わずに従ってくれる同級生たち。
ただ今日はほんのちょっと下心もあるから後ろめたい気もするけど。
そんな仲間たちが指示通りに動いてくれたおかげで、いつもよりかなり短縮できた後片付け。
急いで部室に戻って汗で冷えた体を適当に拭き制服に着替えると、挨拶もそこそこにその場を後にした。
***
ぼんやりと白色灯が灯る購買の自販機の傍。
壁に寄り掛かるその姿を見つけ、走ってきたそれとはまた別の動悸がして。
首にぐるぐる巻きにしたマフラーに口元を埋めてスマホに視線を落とす横顔。
ついさっきまでコートで汗を掻きながら一緒にプレーをしていたのに、それとは全く違う雰囲気にいちいち胸が高鳴る。
「相葉先輩っ!」
駆け寄りつつそう呼べば、パッとこちらに顔を上げて向けられる満面の笑顔。
「お疲れー。早かったねぇ」
走ってくる俺にニコニコしながら返される言葉に、そのままその胸に飛び込んでしまいたい衝動に駆られる。
でもそれをぐっと堪えて先輩を見上げれば、ぽんと頭に大きな手が置かれて。
「帰ろっか」
微笑みながらぽんぽんと軽く撫でられ、赤くなっていく顔を自覚した。