煩悩ラプソディ
第36章 愛のしるし/AN
相葉先輩への想いが"憧れ"から"好き"になるのに、そう時間はかからなかったと思う。
と言うより"気付いた"のほうが正しいのかな。
きっと俺の想いは最初から変わってなかったんだ。
相葉先輩を初めて見た、あの中学生の時から。
当時から、コート上で一際華のあるプレーをしていた先輩。
女の子からの人気もそれはそれは凄かったから。
その時は捻くれた目線で見てた部分も確かにあったけど、今思えば俺だってそんな女の子の中の一人だったのかもなんて。
だから、歳が一つ上だって分かった時は悔しかった。
もう対戦することもなければ、気軽に声を掛けられる関係でもない。
接点なんてもう何もないじゃんって思ってたけど。
だったら追いかければいいんだって。
俺より先に卒業してしまった先輩といつか一緒にプレーができたら。
それだけを目標に、文武両道である先輩の居るここへ進学を決めたんだ。
そして。
「はー、さっみぃ」
はーっと両手に息を吹きかけて擦り合わせた隣の肩が揺れる。
毛糸の手袋してんのに、ってちょっとおかしくてふふっと笑うと。
鼻の頭を赤くして俺を見下ろす至近距離の瞳。
不思議そうにくるりと丸くした黒目がちな瞳に、またどくんと胸が脈打つ。
最近では、気付いてしまった相葉先輩への"好き"がどんどん加速していってるような気がしてて。
もちろん練習中は先輩たちについてくので必死で、そんなこと考えてる暇なんてないけど。
こうして方向が一緒だからって一年の俺なんかと一緒に帰ってくれたりとか。
他の奴らとはそんなことしないのに、俺だけ特別みたいに思えちゃって。
相葉先輩にとってはこんなこと何の意味もないんだろうけど。
でもさ…
「あれ?お前手袋は?」
「あ…部室に忘れてきちゃって」
「マジ?さみぃじゃん。ほら、はい」
「え?」
そう言って渡された左手の手袋。
「そっちだけでもしときな。こっちは…じゃあこうだ!」
脱ぎたてホヤホヤの先輩の温もりを握り締めていると、ふいに取られた右手。
そのまま大きな手に包まれ、コートのポケットにぎゅっと引き込まれて。
『あったけ~』と照れ笑うその顔に、どうしようもなく想いが溢れてきそう。
もう…
勘違いしちゃうじゃん…バカ。