煩悩ラプソディ
第5章 愛情注ぐ理由はいらない/ON
目を開けると、テーブルに置かれたビールの空き缶がぼんやりと映った。
ソファに横になり、肩までかかったブランケットと頭にはクッション。
「あ、起きた?」
視野外からの突然の声。
すると、目の前に大野さんの顔が。
「わっ…!」
ふいの登場に驚いて思わず体が退いた。
ラグに座り、いつものふにゃっとした笑顔でこちらを見つめている。
…そっか、俺…
大野さんと…。
さっきまでの夢のようなひと時を思い出して、途端に恥ずかしさが込み上げてきた。
ひとつに…なっちゃったんだ。
心の中で再確認すると、急に大野さんのことが見れなくなってブランケットを頭まですっぽり被った。
「にの?どした?」
ポンポンと肩を叩かれるけどこの恥ずかしさのやり場がない。
「…かず?」
ボソッと呟かれて、心臓がドクンと波打った。
顔中が熱くなってくる。
そろっと手を下げてブランケットから目だけ出すと、ずっとこちらを見てたらしい大野さんの視線とぶつかった。
そのまま視線を外すことができずに、その真っすぐな瞳に捉えられる。
「…無理させてごめんね?」
「…んん」
「…痛かった?」
「…ん、まぁ」
「そっか、ごめん…」
そう言って今にも泣き出しそうに眉を下げる。
…もう、すぐそういう顔する。
なんでわかんないかな。
「ねぇ大野さん…
智は…ヤだった?」
「え?」
「俺と…ヤだったの?」
ブランケットを下げて大野さんを見つめながら続ける。
「すっごい痛くて死ぬかと思ったけど…
でも、すっごく幸せだったよ?俺は」
言い終わると自然と笑みが溢れた。
本当に幸せなんだ、今。
大野さんが泣くのを堪えるように口をムッと結んだのがおかしくて、ふふっと鼻で笑った。
「なんだよお前…」
「ふふっ…泣き虫」
「言うなや…」
目尻を擦ってむくれるその顔を眺めながら、心が満たされてくのが分かった。
俺は、
この人がいい。
この人と、
ずっと一緒に居たい。
「…よろしくね」
そう、理由なんかいらない。
今までの
"当たり前"は
俺だけの
"特別"に、変わったんだから。
end