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煩悩ラプソディ

第6章 三行の魔法/SO






俺、そんなに疲れてたのかな?
自分ではよく分からないけど、智くんが言うならそうなんだろう。


『翔くん見てたらさ、なんか寝らんなくなっちゃって。
寝ちゃいけないなって』

「いや寝ていいよ!寝てくださいよ…もう」


この人はいつもこうだ。
なんの飾り気もなく、ただ素直に思ったことを伝えてくれる。


そこに明確な意味とかなくったって。
それが、この人の想いであって。


智くんに言われて自覚した俺の疲労感は、いつの間にかどこかにいってしまったみたいだ。


「…智くんさ、寝ないの?」

『ん?』

「や、俺疲れてるみたいだからさ、元気分けてよ」

『え?なに?』

「こないだ言ってたお店、まだ開いてるから」

『…えっ今から?』

「ははっ、そ、今から」


驚いてワントーン高くなった声を聞きながら、じんわり胸に広がっていく温かさ。


形のないものを、いつも与えてくれる。



「…うん、じゃ、またあとで。
あ、ねぇさっきのスタンプあれなに?」

『あぁアレ?や、なんかあのうさぎ翔くんに似てんなぁって前から思ってたんだよね』

「え、なに?俺に使いたかったの?」

『うん、アイラブユー』


笑いながら聞くと、智くんも笑いを堪えるようにそう返した。
ひとしきり電話越しに笑い合って通話を切る。


「さて…と、」


お店に連絡を入れて楽屋を後にする。
すれ違うスタッフさんに挨拶をしながら廊下を歩いていると、ポケットのスマホが小さく震えた。


見ると、智くんからのLINE。


そこには、例のうさぎと茶色いクマがギュッとハグしてるスタンプだけがついていて。


堪らずぶふっと笑えば、通りすがりのスタッフさんにチラ見された。


…このクマが、智くん?


慌てて含み笑ってスマホをポケットに入れ直すと、心なしか足取りも軽くなったように思えて。


緩む頰を隠さずに、 足早に出口へと急いだ。




智くん。



いつも、

優しさを、

愛をくれて、ありがとう。



すぐ行くから待ってて。



俺の、愛しいクマさん。





end

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