煩悩ラプソディ
第38章 ハートはメトロノーム/SM
「このカットでラストです!お疲れさまでしたー!」
スタッフさんの大きな声がスタジオ内に響き渡ると、そこかしこから生まれる拍手に包まれて。
「ありがとうございました」
ニッと笑ってカメラマンさんと握手を交わし、未だ止まない拍手の中、会釈をしながらスタジオの出口へと足を進める。
途中で『お疲れさまでした』と駆け寄ってきたアシスタントカメラマンの女性。
『応援してます』ってキラキラした瞳で握手を求められ、さっきの撮影で作った笑顔を思い出して微笑んだら。
一瞬固まった後、真っ赤な顔を俯かせペコリとお辞儀をして逃げるように去って行って。
「……」
「松本、行くぞ」
「…あ、はーい」
その様子をぼんやり見ていたら出口付近に居た翔さんに名前を呼ばれ。
スタッフさん達に丁寧に挨拶をしながらスタジオを出る後ろ姿に倣って着いていった。
相葉くんとの学園祭大作戦がキッカケで、この世界…いわゆる芸能界に足を踏み入れることになった俺。
あ、正確に言うと俺と相葉くんだけど。
元々はちょっとしたバイトのつもりだったのに、それがいつの間にかファッション誌からのオファーが絶えず来るまでになって。
契約の時翔さんに"僕らも輝かせてくれるんでしょ?"なんて冗談で言ったんだけど。
今の自分を取り巻く環境を改めて見ると"さすが"の一言しか出ない。
正直、最初はめちゃくちゃ胡散臭いヤツだと思ってた。
でも、今となっては俺も相葉くんも翔さんに絶大な信頼を寄せている。
…んだけど。
スタジオを出て翔さんの運転で別の仕事へ向かう。
車内は翔さんのこだわりか知らないけどラジオなどの音は一切なくて、ただただ走行音と沈黙が俺たちを包み込む。
翔さんには仕事の面では本当にお世話になってるし、この世界に入ったおかげでちょっと街を歩けば女の子達が振り返るようにもなった。
学校でも一目置かれてて、生徒会の活動にも興味を持ってくれる生徒が増えたのはありがたいんだけど。
その、なんていうか…
俺の思い過ごしかも知れないけど…
いやでも、多分そうだと思うんだよね。