煩悩ラプソディ
第38章 ハートはメトロノーム/SM
c/w《ナイショの放課後》
ドラマの撮影が始まり、今までと比べ物にならないくらい忙しくなった。
そんな中、俺の恋人…兼マネージャーは相変わらずの調子で。
「ねぇ翔さん」
「"ねぇ"はやめろ。仕事中だぞ」
「……」
最近では学校に直接迎えに来てくれてそのまま現場に行くことが多い。
だから唯一、この車内だけが二人っきりになれる空間だってのに。
「堅いこと言わないでよ」
「こら、言葉遣いは」
「…ふん」
「あっ、お前!」
ルームミラー越しに睨まれるけど、そんなのもう俺には通用しないからさ。
「翔さん今日は何時までですかー?」
「…撮影次第だが20時には終了予定だ」
「じゃあその後翔さんち行っていいですかー?」
「ダメだ」
「なんで」
「お前はまだ高校生だろ。親御さんから仕事のことをご理解頂いてるんだから約束はきちんとまも」
「はいはいはいはい」
また始まったよ。
なんでせっかく二人になれたのに説教されなきゃなんねーんだよ。
ふんとあからさまに鼻で息を吐いた。
なんだよ…
こんなの付き合ってるって言えねーじゃん…
何だか一気に気分も萎えて、ゴソゴソとスマホを取り出してゲームアプリのアイコンをタップした時。
「…ふふっ」
運転席から微かに聞こえた笑い声。
驚いて目を上げれば、信号待ちでハンドルを握ったままこちらに振り向いた翔さんの顔。
「…なんだその顔は」
「っ…なにが」
「なにをそんなに可愛い顔してる」
「っ…!」
くっと口角を上げて笑う翔さんに射止められ、みるみる内に顔に熱が集まる。
「やっぱり子どもだな、潤は」
「っ…どうせガキだよ」
「ふふっ、いや…いいんじゃないか。潤らしくて」
「…どういう意味?」
自分だけが分かってるみたいに楽しそうに微笑む翔さん。
信号が青に変わり向き直った途端、バリッと仕事モードに切り替わった気配。
…ずるいよいつも。
そうやって急に動揺させるようなこと言って。
どれだけ強がってもあんな風に往なされたら何も言えないじゃん。
ちょいちょい出してくるオトナの包容力にいちいち堕とされる。
やっぱり俺はまだまだガキだなって。
啖呵を切った宣戦布告は…未だ一方通行なのかも。
end