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煩悩ラプソディ

第38章 ハートはメトロノーム/SM






そんな俺に再び訪れた衝撃は。


祝福ムードの俺たちを黙らせるかのようにバンッと勢い良く開いた入口のドア。


そこに居たのはさっき出て行ったばかりの翔さんで。


スマホをぎゅっと握り、うっすら肩を上下させどこか興奮しているような気配。


「潤…」


小さく届いた声も震えていて、こんなに取り乱した翔さんを見るのは初めてだった。


たちまち胸に広がる言い知れないざわつき。


今度は一体なに…



「CM…CMが決まったぞ…!」


興奮冷めやらぬ声色ではっきりと告げられ、頭で理解するより先に。


背後から肩に受けた急な衝撃に思わず前につんのめり。


倒れると思った瞬間、ぶつかるように受け止められた先にあったのは。


眼鏡がズレて面食らった翔さんの顔。


駆けてきた拍子に思いがけず抱き留められ、視界一杯に広がるその間抜けな顔に。


言いようの無い愛おしさが込み上げてきて。


「翔さんっ…」


素直にぎゅっと抱き着けば、ぽんぽんと後頭部を撫でる優しい手の感触。


そして。


包むように背中に回された腕に力がこもり、翔さんの温もりがダイレクトに伝わってくる。


「ほんとによくやった…」

「っ、はい…」


後ろから聞こえる歓喜の声の中、耳を擽る俺だけに聞こえる翔さんの声。


「これから忙しくなるぞ。大丈夫か?」

「はい…大丈夫です」

「…心配するな。私が傍にいるから」

「っ…」


ぽんぽんとリズムを刻む優しい手つき。


その感触に負けないくらいの優しい声。


「一緒に考えていこう、これからのこと。
仕事のことも…"俺"とお前のことも」


間を置いて告げられたその台詞。


それが何を意味しているのか、いくら俺がガキでもそれくらいは分かる。



やっとの思いで翔さんの譜面に乗ることが出来たんだ。


だけどこれからが本番。


どんなメロディを奏でるかなんて分からない。


それがとんだ不協和音だとしても、絶対最後まで振り切ってやるから。


…翔さんの中に俺と言うリズムがしっかりと刻まれるまで。



そっと顔を上げた先にある、眼鏡の奥の丸い瞳に宣戦布告。




今度こそガキの本気見せつけてやるから。


覚悟しててよ…翔さん。




end

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