煩悩ラプソディ
第39章 My name is Love/AN
最低最悪な気分。
もう何もかも投げ出したい。
ほんの一時間前、馴染みの喫茶店で告げられた衝撃の告白。
『ごめん、和也とはもう別れたいの』
突然切り出されたその言葉が上手く呑み込めないでいるところに、更に畳み掛けられた台詞。
『私、潤君と付き合うことにしたから』
ごめんね、と小さく言い終えて去って行く後ろ姿。
引き留めることも出来ず、ただ置かれたこの状況を懸命に理解しようとしたけど。
こんなの理解なんてできるワケねーだろ。
なんで一気に親友と彼女を失わなきゃなんねーんだよ。
なんで?
なんでだよ。
なにがどうなってこうなったんだよ。
俺のなにがいけなかったワケ?
もう…
誰か教えてくれよっ…!
荒んだ気持ちで喫茶店を飛び出せば、途端にポツポツと空から雨粒が降ってきて。
それが次第にパラパラと纏まって落ちてきたかと思えば、一瞬の内にザーザーと音を立て始め。
くっそ…
なんでこんな時にっ…!
傘を開く人々の間を縫って早足で歩く。
本当は脇目も振らず駆け出して、このままどこかへ行ってしまおうかとも思った。
けど、生憎行ける場所もなければそんな大それた事をする勇気もない。
自覚済みのどうしようもない自分にも心底腹が立つ。
行き場の無いやるせなさ。
ぶつけようの無いこの気持ち。
もういっそこの雨が全部洗い流してくれたらいいのに。
何もかも全部。
俺の存在も何もかも、跡形も無く。
それから、雨に打たれながら無心で家に帰った。
薄暗いアパートの階段を惰性で昇ると、滴る水滴がひび割れたコンクリートに染みを作っていく。
だいぶ濡れてしまったけど、もうどうだっていいと思った。
こんな俺なんかどうなったっていいんだ。
びしょ濡れの服のせいか分からないけどやけに体が重く感じる。
引きずるようにして一番奥のドアまで辿り着こうとした時、ふとそこにあるものを見つけて。
それが何か分からなくて近付けば、ドアに寄り添うように置かれた小さな植木鉢が。
…え?
よく見ると、無数にトゲの生えた丸いサボテンだった。