煩悩ラプソディ
第39章 My name is Love/AN
酷い寒気と頭痛で目が覚めた。
ゆっくりと体を起こし小窓を覗けば、薄暗い外は降り続く雨が静かに音を立てている。
寝たら少しはマシになるかと思っていた気分は相変わらず優れない。
むしろ、閉め切ったカーテンのせいで昼間だと言うのに薄暗いこの部屋に居るだけで。
この世界に俺だけ一人取り残されてしまったような。
そんな虚無感に襲われ、堪らなくなってベッドから降り立った。
ズキズキする頭とズンと襲いかかる寒気を抱えて冷蔵庫へ向かうと。
暗い玄関ポーチにふと違和感が。
…あ。
そういえば…さっきうちの前に捨てられてあったんだコイツ。
俺、中に入れたっけ?
誰かのイタズラか知らないけど、ご丁寧にドアの前に置かれていたサボテン。
いつの間にかちゃっかり玄関の中に居たソイツを不思議に思いつつ、灯りを点けてしゃがみ込んだ。
捨てたにしてはきれいな状態。
鉢も新品みたいだし、何よりこのサボテン。
トゲトゲがいっぱいあるのに丸のてっぺんには赤い小さな花を咲かせていて。
さっきは無心で何も思わなかったけどちょっとかわいいじゃん。
「…って!」
そっと手を伸ばしてみたら指先にチクっとトゲの感触がして。
ジンとするそこをキュッと握ってソイツをひと睨みするけど、もちろん当然のようにそこにあるだけ。
そのままジーッと見つめて、はぁと溜め息をひとつ。
…サボテンにも相手にされねぇんだな、俺なんて。
そんな当たり前のことを改めて思ってしまう程、今の俺はどうしようもなく誰かに縋りたいようだ。
消えてしまいたいなんて嘘。
跡形も無くなんてもっての外。
本当は分かってんだ、全部。
教えてくれなくても分かってんだよ、俺。
全部自分が蒔いた種だってこと。
彼女も親友も無くしたのは他でもない俺のせい。
…俺のよく知ってる自分自身のせいなんだ。
迫り上がるような靄が胸の中を覆い尽くす。
喉が詰まりかけて、またひとつ長い息を吐いた。
お前がうちの前にいたのも何かの縁だ。
ちょっとだけ…
ちょっとだけでいいから。
俺の相手してよ。
「…あのさ、」
オレンジ色の灯りの下。
物を言わないソイツへの人生相談は、しばらく尽きることはなかった。