煩悩ラプソディ
第40章 寝ても覚めても首ったけ/AN
日付もとうに変わった真夜中。
ここ最近は当たり前になった小さな物音が聞こえると。
リビングのドアをカチャリと開ける。
「あ…ごめん起きた?」
「おかえり、お疲れさま」
連日のドラマ撮影のさ中でもこうして俺の家に帰ってきてくれるにの。
「腹は?」
「んーん、いい」
背を向けたまま返事をする姿はいつにも増して丸まっていて。
現場から役柄そのままで帰ってきたんじゃないかってくらいのくたびれよう。
「風呂沸かそっか」
「んー…お願い」
その背中に近付きながら投げかければ、やっと振り向いた顔が。
…ん?
疲れのせいかやけに目が潤んでる気がする。
どことなく口も尖ってるし。
んでなんか訴えるように見てくるのはなに…?
下がった眉が一層それを助長していて、まるで抱き締めてって言ってるみたいで。
こういう時の俺の勘はよく当たる。
にの限定だけど。
そのままくいっと腕を引くと簡単に預けてきた体。
ぎゅっと抱き締めれば肩を縮こませて腕を腰に巻き付けてきた。
ほらね、やっぱり。
「…どしたの」
「……」
「…疲れた?」
腕の中のにのは何も言わずにこくんと首を振り。
そしてはぁっと長い息を吐き、縋るように首元に顔を押し付けてきて。
今日はどうしたんだろう。
やけに素直でちょー可愛いんだけど。
「疲れたね。風呂入って寝よっか」
「……」
「一緒入る?洗ったげよっか」
「……」
こめかみに唇をつけて囁いても微動だにしないにの。
大体この手のおフザケにはツッコむかなんかしてくれるのに。
今日は相当疲れてんのかな。
「…にの、風呂行こ」
いつの間にか全体重を預けるように抱き着かれているのに気付き。
ぽんぽんと後頭部を撫でて促したら。
ゆっくりと上げた顔がびっくりするほど欲情していて。
っ…!
伸びた前髪から覗く潤んだ瞳がゆっくりと瞬きを繰り返す。
「やっぱりさ…」
「…え?」
水分量の多くなった薄茶色の瞳を揺らしながら小さな唇が動いて。
「…やっぱりこの角度がいい」
「……」
「相葉くんがいい…」
言いながら傾けてきた顔。
慣れたはずのその感触が、今日はやたらしっくりくるのはなぜだろう。