煩悩ラプソディ
第40章 寝ても覚めても首ったけ/AN
風呂場で背中を流してあげながらさっきポロっと溢した言葉の意味を聞けば。
共演者のみんなが自分より背が高くて見上げるのに疲れる、だって。
そんで俺の角度がちょうどいいってこと。
なんだよその理由。
なんてちょっとばかり悪態ついてみるけど、緩まる頬を抑えきれずに左の口角は上がりっぱなし。
そんなに俺が恋しかったか、にのめ。
いや俺だってそうなんだけど。
俺たちの中のルールとしてどちらかのドラマ撮影中は禁欲生活を余儀なくされる。
これは二人で話して決めた事だけど、最近では割と簡単にそれが破られることもあって。
去年は俺がドラマ撮影だったからにのに寂しい思いさせちゃったし。
てかコイツ俺が寝てるとこに忍び込んで一人でシちゃってたんだっけ。
くふふ、どんだけ恋しかったんだよ俺のこと。
ベッドに横たわって背を向ける丸まった背中。
ベッドライトにぼんやり彩られる黒髪は襟足がだいぶ伸びてきた。
無言でスマホゲームに興じるその猫背を片肘をついて眺めつつ、さっき風呂場で我慢した欲求がふつふつと沸いてきて。
禁欲生活六日目。
もうそろそろ限界。
にのだってそうでしょ?
だからあんな欲しそうな顔してたんだろ?
こういう時の俺の勘はよく当たんだよ。
何も言わずに距離を詰めて後ろからぎゅうっと抱き締めれば。
うなじから香るにのの匂いと柔らかな抱き心地に一瞬で熱が点された。
「…ん?なに…」
「んー…?いや抱っこしたいだけ」
「くはっ、なに抱っこって…」
「ねぇ…もっと抱っこしていい?」
赤く染まっている耳たぶに唇をつけて囁くと。
ぴくんと肩を揺らして反応する腕の中の体。
柔らかな髪に頬を擦り寄せながら更にぴったりと下半身を密着させて。
すでに臨戦態勢だぞってアピールするように、小さなお尻に俺のを押し付けた。
途端にふふっと漏れる笑い声。
「…ガチガチじゃないすか」
半笑いのまま振り向いた瞳は前髪の隙間から潤んで俺を見上げる。
「そうだよ、誘ったのお前だよ?」
「別に誘ってねぇですけど」
いやいや、首捩って口答えしながらそんな欲しそうな顔されたって説得力ないからな。