煩悩ラプソディ
第43章 双星プロローグ/AN
尻もちをつく雅紀の両肩を叩いて宥めながら、少しずつ冷静さを取り戻してきた頭で考えた。
確かに今までの俺の態度を思えば勘違いされたっておかしくない、か…
いやっ、でもでもでも!
違う違う!
そんなこと言ったら俺だって!
「っ…お前だって絶対俺のこと好きじゃないだろ!」
「えっ?なんで!」
「だって家族だとか兄ちゃんだとかばっかり言って…」
「いやだってさ!それはそう思ってないと我慢できないじゃん!」
「なっ…」
いきなりそんな方向に飛躍した話に思わず口を手で覆ってしまった。
「ずっと頑張ってたんだから、俺…
いい弟でいようって…」
「……」
「嫌われてるのは分かってたから、だったら開き直って一番近いとこに居ようって…」
「っ…」
急に大人しくなった雅紀がぽつぽつと発した台詞。
それはまるで俺の心の内をなぞるように。
「家族だったらかずくんのこと守ってあげるのは当たり前だし…。だからそう思ってようって、俺…」
消え入りそうな声で紡がれる言葉にきゅうっと胸を締め付けられる。
そんな風に…思ってたんだ…
そんなのさ…
「…分かんねぇよ、そんなの…。
俺だって雅紀のことっ…、」
俯いて小さくなっていた体がまた急にぐいっと引き寄せられて。
「わっ…」
ぽすんと胸の中に収まったあと、ぎゅうっと力強く抱き締められた。
再度感じる雅紀の体温と匂い。
そして。
「でも結局…俺たち両想いなんだね」
柔らかく耳を擽る穏やかな声。
その全てに包まれてじわじわと胸が詰まってくる。
…あぁ、やっと。
やっと…雅紀の前で素直になれんのかな、俺。
そっと身動ぐと察したのか体を離してくれて。
至近距離で見上げれば、寒さで鼻の頭が赤くなった顔。
「…雅紀」
「…うん?」
緩く口角を上げて微笑む優しい眼差し。
その瞳には俺だけが映っていて。
「…好き」
「…うん」
「お前が好き…」
そっと告げれば、抱き締めていた腕を解いて。
頬から耳にかけて大きな両手で包まれ上向かされる。
「俺も好き…
好きだよ…かずくん…」
あの時俺がしたのと同じように。
宛がうようにそっと優しくその唇が降りてきた。