煩悩ラプソディ
第44章 恋してはじめて知った君/SO
その報せは突然だった。
"翔ちゃん来週帰ってくるんだって!"
HR後のざわついた教室。
いつものように二宮くんを背後に駆け寄ってきた相葉くんは。
黒目がちな丸い瞳をきらきら輝かせながらそのニュースを俺に伝えてくれた。
櫻井くんがアメリカに旅立って三ヶ月。
その後も俺の周りにはやっと出来た"友達"と呼べる仲間が常に居てくれて。
寂しさなんて感じる暇もないくらい、今までと比べ物にならない程の充実した生活を送れていた。
それは全て櫻井くんが残してくれたもの。
ようやく描けたみんなの似顔絵を送ったのはつい一週間前のこと。
そのお礼の電話が来たのは三日前。
その時話した内容なんて、緊張し過ぎて今やぼんやりとしか思い出せないけれど。
唯一耳に残っているのは。
"智やみんなに会いたい"
という柔らかな声だけ。
「昨日急に決まったんだって!ちょー楽しみだよねっ」
「もうさ、さっきからそれしか言ってないじゃん。早く帰るよ、ゲームすんだろ今日」
机に手をついて俺に伝えてくれる嬉々とした表情の後ろ、二宮くんの眉間に段々と皺が寄っていくのが見えて。
思わず笑いが溢れてしまいそうになりながらも席を立った。
"寂しさを感じる暇もない"なんて、そんなのはただの強がりで。
櫻井くんの居ない日常は想像以上に寂しいものだった。
もちろんみんなと居る時間は楽しくて仕方がないんだ。
だけど。
それと同時に募っていく想い。
やっぱりどうしたって溢れてしまう想い。
スケッチブックの前の方に描いた微笑む彼の瞳をもう一度。
…もう一度、自分に向けてほしいと。