煩悩ラプソディ
第44章 恋してはじめて知った君/SO
時間の流れはあっという間で。
約束の、櫻井くんが帰国する日。
空港のロビーのソファで待っている間、どんどんと上がっていく心拍数。
あの日以来、記憶の中とスケッチブックの中だけで描いていた櫻井くんの面影。
ついこの間は声を聞いただけで心臓が機能停止しそうになっていたから。
「もうそろそろじゃない?」
「えっ、どこ?どこから来るっ?」
「うるさいなぁいちいち」
期待で浮き足立つ声色の三人とは裏腹に、迫り来るその時を迎える準備がまだ出来ずにいて。
離れている期間はほんの僅かだったのに、まるで初めて話をした時に戻ったような緊張感に襲われる。
どんな顔で会ったらいいかとか。
なんて言葉をかけようかとか。
少しでも櫻井くんへの印象が悪くならないようにって。
リセットされた今の感覚ではそればかりが先に立ってしまう。
こんなこと…
別に俺なんかが考えなくてもいいことなのに。
「…あ、来た!」
松本くんの一声で思わず顔を上げた。
ガヤガヤと人が交差するロビーの向こうから。
大きなキャリーバッグを引いて歩いてくる姿。
「翔ちゃんっ!」
一目散に駆け出した相葉くんを皮切りに二宮くんも松本くんもその後を追って。
それがきっかけとなって何とか動き出せた俺も、遅れながらもみんなを追い掛けた。
近付くその姿に胸が高鳴る。
走っている動悸か、上擦る鼓動か。
ほんの少しだけ痩せたような気がする頬。
けれど駆け寄るみんなを受け入れる瞳は柔らかく細められて。
「翔ちゃーん!会いたかったぁー!」
「ぐえっ、雅紀っ!ちょ…苦し…」
「はいはい離れなさーい」
「長かった?飛行機」
「は~いやもうくったくた。マジで遠いわ」
櫻井くんを取り囲む背中に隠れるようにそっと覗き見ていると。
ふいに彷徨っていたその瞳が俺を捉えて。