煩悩ラプソディ
第44章 恋してはじめて知った君/SO
上の空にならないようにと必死に研ぎ澄ましていた耳に、スッと入ってきた言葉。
「俺さぁ…やっぱ寂しいんだよなぁ…」
小さく発した声はふわりとそこに留まって。
「なんか…智が居ないと寂しいなぁなんつって」
覆い被さるように重ねられた言葉に、完全に手が止まってしまった。
……え?
「なんつーの?なんか…うん。智ってさ、ほっとけないっつーか…」
「……」
「別に俺がどうこうってワケじゃないんだけどさ、なんつーかその…」
机に組んだ両手を忙しなく動かす仕草。
こんなに口籠る櫻井くんを見たのは初めてで。
それと同時に得体の知れないざわつきが胸に広がった矢先。
「心配っつーか…傍に居てやりたい、って…」
「っ…」
「…いや!はっ?ごめん、今のナシ!何言ってんの俺!」
ガタっと席を立って慌てるその顔はみるみる内に赤く染まっていき。
こんな表情今まで見たこともない上、さっきの言葉が脳内でリフレインし続けるから。
咄嗟にガタンと立ち上がれば、驚いたようにこちらを見る丸い二つの瞳。
どくどくと高鳴る心臓は口から飛び出てしまいそう。
だけど。
今、今言わなきゃ…
「あの…お、俺もっ…」
「……」
「俺もっ…櫻井くんがっ…す、すき…」
「……え?」
どうしても目を見れなくて俯いたまま告げたセリフ。
尻すぼみになってしまった"好き"は、ちゃんと届いただろうか。
「ぁ…えっと、あの…好き、なの…?」
「……ぇ」
「あぁごめん!ちょっと待った、えっと…」
今度は背を向けて何やらぶつぶつ呟いている背中。
…もしかして俺、間違えた?
これって…櫻井くんのこと困らせてる…?
一気に血の気が引いていくような感覚と、相反して顔に熱が集まっていく感覚が同時に押し寄せて。
願わくば数十秒前の自分に戻りたい。
そして今じゃないと全力で止めてやりたい。
はぁと溜息を吐いた気配がした背中に肩が揺れてしまう。
とんでもないことを言ってしまった。
もしかしたらもう友達にも戻れないかもしれない。
ゆっくりと振り返る背中を直視できず、俯いて唇を噛み締めた。