煩悩ラプソディ
第45章 流星エピローグ/AN
それは、相葉家が我が家に越してきてちょうど一ヶ月が経った日の夜のこと。
家族四人で囲む食卓にもようやく慣れてきた頃で。
そんな俺の耳に飛び込んできた衝撃のニュース。
「しっ…新婚旅行っ!?」
思わず大きな声が出てしまった俺を余所に、対面の二人は何ともないように続けた。
「そんなに驚くことないだろ。だって新婚なんだから。なぁ?」
「えぇ。かずくんもうじき入試だからその前にと思って…いいかしら?」
二人してニコリと微笑まれ、前のめりになったまま固まってしまって。
…いや、新婚旅行ってなんなの。
今更そんなの行く?
しかも俺の入試前にとか言われたらなんも言えねぇじゃん。
…待てよ。
てことは…
「…いつから?」
「来週かな。月曜からだよ」
「…いつまで?」
「日曜には戻る」
「一週間っ!?」
食い気味に突っ込んでしまっても仕方ない。
なんで一週間も!?
え、フツーに長くない!?
そんな一週間もあったら…
チラリと隣の雅紀を見遣る。
茶碗片手にニコニコしながら親父たちの話を聞き続けている横顔。
その視線がふいにこちらに向けられて。
っ…!
「ん?どうしたの?」
「べつにっ、何でもない…」
覗き込まれる瞳に耐えられず無造作に味噌汁を啜ってごまかした。
ひとつ屋根の下、兄弟兼恋人である雅紀と暮らして早一ヶ月。
浮き足立つ気持ちとは裏腹に、恋人になったと同時に届いた雅紀のベッドは当然のように雅紀の部屋に運ばれ。
それまで一緒に寝ていた俺は急にお役御免状態になり。
意味もなく一緒に寝るのは親父たちにバレてしまうからと、いとも簡単に別々の部屋で寝ることになった始末。
そんなだから二人で居る時間なんて限られたもんで。
まぁ二人で居たってやることはゲームくらいなんだけど。
でもたまに雅紀が過剰なスキンシップを取ってくることがあって。
単なるじゃれ合いのつもりかもしれないけど、俺にとってはいちいち体が反応する程の行為なワケで。
それに…
実のところあの告白の日以来、恋人っぽいことは何一つしていない。
毎日同じベッドで寝ていたのが嘘のように何の進展もなし。
でも、そもそも家族の居るこの家じゃどうにもならなかったのがこれまでの現状だった。