例えばこんな日常
第15章 この胸のトキメキは/MN
起き抜けに、トーストを齧りながらあたふたと制服に着替える。
急いでる時こそ持ち前の不器用さが発揮されて、なかなか結べないネクタイにイライラが募り。
「…ん~っ、くそっ!」
鏡の前であくせくしていると、ガチャっと開いたドアから覗かせた顔と鏡越しに目が合った。
「潤くん早く」
「あ!ちょ、かずネクタイ結んで!」
早口でそう告げてトーストを片手に振り返れば、『も~』と笑いながら中に入ってくる。
手際良く動く指先を感じつつ、俺のネクタイに視線を送る至近距離のその顔を盗み見て。
…どきっ。
また訪れたこの感覚。
最近は特に感じることの多くなったそれを、俺はどう消化していいのか分からないでいる。
「よしっ、できた。ほら、急ご?」
そうして、ぽんと両手で肩を叩かれて我に返り、部屋から出ていく小さな背中を慌てて追いかけた。
***
父さんから手渡された弁当をカバンに詰め込んで、かずと一緒に駅まで走る。
俺もかずも、小さい頃から病気のせいで男子高校生並みの体力なんかついてなくて。
だから朝は余裕を持って準備しないと、こうしてキツイ試練を受けることになる。
少し後ろを走るかずを振り返りつつ、ギリギリセーフで改札に滑り込んだ。
「はぁっ、大丈夫…?」
「ん…へーき…」
膝に手をついて肩で息をするかずが、顔を上げて力無く笑う。
何となく顔色が悪いような気がするけど…大丈夫かな。
ようやく息を整えたと同時に電車がホームに到着し、毎朝のもう一つの試練へと足を踏み入れる。
高校に入学してはや数ヶ月。
通学のラッシュにはもうだいぶ慣れたけど…この状況にはなかなか慣れない。
息がかかるほど近くにある、俯き気味のかずの顔をチラリと見遣る。
超満員の車内はぎゅうぎゅう詰めで、今日は運良くドア横の角を陣取ることができた。
ガタゴトという不規則な揺れの度に密着する、俺とかずの体。
角に追いやられたかずの小さな体は、この満員の電車内では埋もれてしまいそうで。
向かい合っていると、まるで俺がかずを守ってあげてるみたい。
そんな毎日の…
むず痒い感覚というか、なんというか。
よく分からないこの感情が、日に日に増していってる気がしてるんだ。