例えばこんな日常
第15章 この胸のトキメキは/MN
その時、ガタンと一際大きな揺れが車内を襲った。
同時に周りの乗客からも押されて、体勢を崩してしまって。
「っ!」
かずの顔横に肘をついて支えたけど、完全に覆い被さるような形になった。
「っ、ごめ…」
「ぁ…大丈夫、」
動かせない体とは裏腹に、至近距離にあるかずの顔に途端に体が熱くなってくる。
じっと揺れに耐えるその顔は、目を伏せてぎゅっと下唇を噛み締めていて。
車内の暖房のせいか頬は赤く染まり、息を潜めるように押し殺した呼吸と相まってどこか苦しそう。
「…かず、どうした?」
「んん、なんでも…」
小声で訊ねても、小さく首を振るだけで。
なんか…具合でも悪くなった?
「かず…、っ!」
もう一度訊こうと顔を傾けた時、胸元に感じる圧がより強くなって。
えっ…!?
かずが、俺のブレザーの裾を握ってぎゅっと抱き着いている。
目下にはつむじしか見えなくて、肩口に預けられたおでこからはじんわりと熱が伝わってくるだけ。
俺達の居るこの場所は、他の乗客からは死角になっているとはいえ。
突然のこの状況に、またいつもの感覚が急激に押し寄せてくる。
やけにドキドキと鳴る心臓は、こんなにも密着したかずにも勿論伝わってるはず。
てゆうか…
どうしたの?かず…
「…潤くん、」
目下のつむじが身動ぎ、くぐもった声が聞こえたかと思うと。
「…気持ちわる…」
「…っ、えっ!?」
ぎゅっと抱き着かれたまま小さく聞こえたその言葉に、慌ててかずの背中を摩って。
「えっ、大丈夫…?降りるか?」
「ん…頭痛い…」
ゆっくりと動いて、おずおずと顔を上げたかずは。
さっきよりも頬が赤くて、ぼんやりと焦点を合わせる虚ろな目はうるうるしてて。
そんなかずの表情に、こんな状況なのにまたドキッとしてしまい。
「っ…もうちょっとだからっ、ほら」
これ以上見てはいけないと本能的に思って、かずの後頭部を抱えて肩口に抱き寄せる。
ガタゴトと揺れる電車の中、ふわふわした心と体のまま次の駅までじっと耐えるしかなかった。