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例えばこんな日常

第15章 この胸のトキメキは/MN






「はい、いいよ~」


いつもの呑気な声で、シャツの下から聴診器を抜き取る先生。


キイっと椅子を回転させてカルテに書き込む横顔に、こっそり声を掛ける。


「…ねぇ先生、あのことなんだけど…」

「んー?」

「…うまくいったよ」

「…んぇぇ!?」


カルテから顔を上げた大野先生の顔は、目を見開いて驚いていて。


「マジかっ!」

「うん、マジ」

「うわぁ~そっかぁ…」


驚いたと思ったらしみじみした顔で天井を見上げる先生に、思わずふふっと笑みが溢れてしまう。



実は大野先生には、密かにかずのことを相談していた。


月に一度の定期受診の度に、俺の胸の内を聞いてもらっていて。


先月相談をしたすぐ後に、かずへの気持ちを確信した俺。


それからかずと両想いになって初めての定期受診の今日、事の報告にこんな良いリアクションをしてくれるなんて思ってなかったから。



かずの受診も終えての帰り際、大野先生に小声で『やっぱ親子って似るねぇ』と言われて。


親父たちのことか、と思って何だか照れ臭くなって『先生も頑張れよ』と悪態をついて病院を後にした。



かずと二人で学校へ向かう電車内。


この時間帯はほとんど人も居なくて、座席に座ってガタゴトとした揺れに身を任せる。


10人掛けの座席なのに、俺達は端っこに並んでくっついて。


すぐ隣にかずの温もりを感じつつ目を遣ると。


ブレザーの袖から覗かせたセーターを握り、あくびを堪える口元に押し当てていて。


そんな仕草に、また心臓がきゅっと締め付けられる。


「…眠い?」

「んー…」


大きな窓から差し込む陽光を背中に受け、とろとろし始めたかずの顔を覗き込もうとしたら。


トン、と肩に乗った僅かな重み。


頬に触れる柔らかい髪を感じて、またじんわりと愛しさが込み上げる。



かず、これからも俺の傍に居て。


俺も、かずの傍にずっと居るから。


友達として、兄弟として、家族として。


…恋人として。



今までも、これからも。



…大好きだよ、かず。



間に置いた通学カバンの下、そっとかずの手を握り心地良い揺れに身を委ねて瞼を閉じた。






end

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