例えばこんな日常
第15章 この胸のトキメキは/MN
密着する俺とかずの体。
今朝の電車内なんか比べ物にならないくらい。
直接感じるかずの感触と体温、匂い。
どくどくと鳴る心臓が鼓膜にも響いて、燃えるように熱い体は頭のてっぺんから爪先まで必死にかずを感じようとしてて。
ぎゅっと力を込めると頬に触れる柔らかい髪や、いつも傍で漂ってたかずの匂いを。
その一つ一つを感じる度、どうしようもない感情が湧き上がってくる。
されるがままで動かないかず。
こんな状況、どう考えたっておかしいよな?
なのに…
なんで嫌がらないの?
…それどころか。
なんで…
背中に、腕が回ってんの…?
ぎゅっと背中に巻き付く細い腕は、まるで俺の全てを受け入れてくれてるみたいで。
嫌じゃ…ないの?
かず…
伝えても、いいの…?
こんな感覚は初めてで。
こんなに頭と体がふわふわして、ただただ合わさった胸の鼓動だけが鼓膜の奥に漂って。
これが…大切な存在ってこと?
かず…
俺…
「…かず、俺っ…」
「…わかってる」
…え?
溢れ出しそうな言葉を伝えようと口を開いた時、肩口からくぐもったかずの声が届いた。
「わかってるよ…潤くんの気持ち…」
言い終えると、ぎゅっと掴まれた背中のシャツに皺が寄る感覚がして。
「え…それって、」
「ん…。
俺も…俺もね、潤くんのこと…」
そこまで言ってかずが顔を上げようとしたから、その華奢な肩を掴んで引き離した。
驚いたかずの顔は赤く染まってて、潤ませた瞳はゆらゆら揺れている。
「ごめん…俺から、言わせて…?」
ぐるぐる悩んだって、結局同じだったんだ。
こんな溢れそうな想いを、誤魔化せるワケなんかない。
「俺…かずのことが…好きだ…」
顔は真っ赤だろうけど。
唇も震えてると思うけど。
でも、まっすぐにかずを見つめて、そう伝えた。
「…俺も。
ずっと…潤くんが好き…」
見上げながら告げられた、かずからの言葉。
"好き"という確かなフレーズに、また一気に体中が熱くなる。
ふいに掴んだ肩がするりと動き、距離を詰められ。
少しの間、見つめ合って。
頬を染めたまま静かに閉じられた瞼に吸い寄せられるように、ゆっくりと顔を傾けた。