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例えばこんな日常

第17章 高架下ランドリィ/AO






地下へと吸い込まれる人の群れに、足並みを揃える。


ひたすら同じ方向へ行儀よく進んでいく様が、まるでベルトコンベアーに乗って出荷されていくみたいで。


今日もまた、同じ一日が始まる。


大学を出てそこそこの企業に就職して、なんとなくこの歳まで勤めてきた。


同期の連中は系列会社の役職付きになっていく中、いつまで経っても俺の立ち位置は変わらない。


この間も上司に
『君は今ひとつ足りないんだよ』
と言われた。


今までもこんな曖昧な言葉で片付けられてきた。
自分でも、よく分かってる。


明る過ぎる蛍光灯に包まれた地下道の中、黙々と大移動を続ける群れにぼんやり流されていると。


ふいに誰かが後ろから俺の肩にドンッとぶつかって、そのまま走り去っていった。


急な衝撃で持っていた傘が手から離れ、どんどん人波に飲まれていく。



うわ、最悪っ…!



慌てて流れに逆らいながら戻り、ようやく辿り着いた傘に手を伸ばすと目の前からそれが消えた。


ことごとく肩透かしをくらったようで多少苛つきながら顔を上げれば、男性が傘を差し伸べていて。


ふにゃっと、という表現がしっくりくるような柔らかい笑顔。


多分、俺と歳も変わらないくらいであろう男性。


「はい」

「…あ、すみません」


傘を受け取り会釈をすると、男性も会釈を返して人波に消えていった。

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