
例えばこんな日常
第17章 高架下ランドリィ/AO
「え、俺そんな顔してた?」
「うん、すっごい焦った顔してさ」
ベンチで背中を丸めるきょとん顔に、思い出し笑いを浮かべながら振り返る。
「あと大ちゃん、また靴下裏返しだから」
「え?あぁ、ごめん」
ゆらゆらと靴下を揺らしながら何度目かの小言を告げれば、ヘラッと笑って適当な謝罪が返ってきた。
乾燥機から服を全部取り出して、眠そうなその隣に腰掛ける。
12月24日。
街はすっかりクリスマス。
去年の今頃は、まだ何も始まってなかった。
今年のクリスマスは…
いや…誕生日は、もう一人じゃない。
「相葉ちゃん、ケーキどうする?」
「あ〜駅前のとこにしよっか?」
「え、あそこクリスマスケーキしかなくねぇ?」
あの日俺に手を差し伸べてくれたサンタは、それからずっと俺の隣に居てくれている。
初めて会った時と全く変わらない、ふにゃりとした笑顔を携えて。
カゴを抱え年季の入った戸をガラガラ開けると、途端にひんやりした空気が頬を掠めた。
振り返れば頭上の電車が過ぎ往くのを待つかのように、大ちゃんがベンチに座ったままあくびを一つ。
「行こっか」
「んー」
ミシミシと振動する天井と、相変わらず眠そうなその顔に笑みを溢し。
一歩を踏み出せば、キュッと小さな靴音が鳴った。
今年もあの日のように雪が降り積もって、道路や屋根に眩しい白が広がっている。
「こけんなよ?相葉ちゃん」
「…そしたらまた助けてよ」
ふふっと笑い合うと、二人の間に白い息が立ち昇った。
陽が傾きかけた、夕暮れどき。
高架下のコインランドリーから、二つの足跡だけが並んで伸びていた。
end
