
例えばこんな日常
第20章 ためいきデイドリーム/AN
入店の度にピロピロと鳴る自動ドアの音が、寝不足でぼんやりした頭にしつこく纏わりつく。
朝の来店ラッシュを終えた店内は、ようやく落ち着きを取り戻し。
商品棚に屈んで、緩い動きでだらだらとお菓子の補充作業に取り掛かってはいるけど。
どうにも頭が働かない。
だから作業も一向に進まない。
雑誌棚側の大きな窓から差し込んでくる陽の光すらも、今日の俺には鬱陶しさしか運んでこなくて。
その原因は十分わかってた。
それは紛れもなく、一昨日の夜起こった出来事のせい。
あの人と…
相葉雅紀さんと、初めて話せたんだ。
それに初めて俺に笑いかけてくれて。
いやそんなことより…
まさかあの人の連絡先を聞けるなんて。
あの日の夜は家に帰ってもずっとソワソワしてた。
貰った名刺を穴が開くんじゃないかってくらい見つめてたっけ。
そこに書かれた走り書きの携帯番号も覚えてしまったほど。
だけど、番号を入れていざ発信ボタンを押そうとしても、なかなか指が動かない。
連絡していい時間っていつ?
こういう電話って何て切り出したらいいの?
つーかそもそもこれって…ほんとに連絡していいものなの?
なんて色々考えて、夜な夜なタイミングを逃してしまってて。
仕方なく寝ようと思っても、頭の中に相葉さんのあの笑顔が浮かんできては全く眠れず。
踏み出したいけどこの一つのボタンが押せなくて、見事に宙ぶらりん状態でほとほと泣けてくる。
今日は金曜日。
俺の相葉さん観察日記のデータによると金曜はここには来ない。
相葉さんを好きになって観察を始めてから、仕事の関係なのか決まって金曜は来店しないことを知ったんだ。
端から見たらやる気のやの字も感じられないだろうな、今日の俺は。
でもいいんだよ、俺の中では金曜シフトは気を抜いて良い日だから。
それに、こんな寝不足の顔なんか相葉さんに見せらんない。
隠れてあくびを一つかましつつ、しゃがんでノロノロと陳列を続けていたその時。
「すみません」
背後から声を掛けられ、気怠げに振り返り見上げると。
っ…!?
そこには、今日来るはずのないあの人が。
あ…あいばさっ…
えっ、なんでっ…!?
