
例えばこんな日常
第20章 ためいきデイドリーム/AN
「レジいいかな?」
言いながら、無人のレジカウンターを指差す整った顔。
「っ、すみませっ…」
慌てて立ち上がって駆け出したら、二段重ねにしていた商品ケースに足を引っ掛けてしまい。
思わずすっ転びそうになったのをすんでで堪えれば、すぐ傍でふふっと笑う声がして。
一気に熱くなった顔を見られないように俯きつつ、急いでレジカウンターへ入った。
…うそうそうそ!
なんでなんでなんでっ!?
今日は相葉さん来ない日じゃないの!?
しかもこんな会い方なんて…
もう…何やってんだよ俺っ!
まるで生き物の様にバクバク鳴る心臓を無視なんてできなくて。
平静を装ってバーコードを読み取ってるけど、その手は静かに震えている。
対面に居る相葉さんを見ることなどもちろん不可能。
だけど、さっきから痛い程つむじに感じる視線に、ますます顔に熱が集まって仕方ない。
…見てるよね?
え、なに?なんなの?
ど、どうしよ…
「…831円になります」
「ねぇ何で連絡くれないの?」
唐突なその言葉に弾かれたように顔を上げると、財布から札を取り出して小銭を探る伏せた瞳。
「待ってたのに」
そう付け足して差し出されたお金を、反射的に両手で受け取って相葉さんを見つめる。
…は?
え、今なんて言いました?
「あれ、目真っ赤じゃない?寝不足?」
ふふっと目尻に皺を作って笑いかけてくるその笑顔に、更に思考回路はショート寸前で。
気付いたら、キャリーバッグを引いて店を出る相葉さんの後ろ姿をぼーっと眺めてた。
入れ替わる様に入店してきた軽快な音に我に返り、さっきの出来事を必死に思い返す。
金曜なのに相葉さんが来て、しかもいつものスーツで相変わらずカッコ良くて。
で、フリスクとリポDとコーヒーとスポーツ新聞と…あと何だっけ、まいいや。
んで、代金伝えたら話しかけられたんだよ。
"何で連絡くれなかったの?"って…
そればかりか"待ってたのに"って。
…なに?どうゆうこと?
待ってたの?
相葉さん俺のこと待ってたの…!?
嘘でしょそんなの…
絶対ありえな…
「二宮くん!陳列残ってるよ!」
「っ、あ、はい!」
店長の一声でまた我に返り、急いで商品棚へと戻った。
