
例えばこんな日常
第20章 ためいきデイドリーム/AN
店内の時計が8:15を差す頃、そろそろかなと自動ドアの方に目を遣れば。
出て行く人々と入れ替わるように入ってきたその姿に、どくんと胸が高鳴る。
この時間はゆっくり話す暇なんてないけど。
いつものようにスポーツ新聞とリポDとフリスクを手にやってきたその顔は、嬉しそうに目尻に皺を湛えている。
その大好きな笑顔に、いつまで経ってもどきどきしてしまう自分がいて。
あの夜を境に、俺たちは恋人同士になった。
まさかコンビニ店員と客の関係から一気に恋人になるなんて、そんなドラマみたいな展開ある訳ないって思ってたけど。
でもまだ信じられないよ。
ほんとに相葉さんは俺のこと好きなのかなって。
俺のどこがいいんだろうって。
だって相葉さんは仕事もデキるしカッコいいし、俺なんかと一緒にいていいのかなってたまに思う。
そうゆう感情が湧いてくると相葉さんにはすぐ気付かれるみたいで、決まって俺にこう言うんだ。
『にのだからいいの。俺にはにのが必要なんだから』
って100点満点の笑顔で言ってくれるから、もうこれからはずっと勘違いしてようって決めた。
会話はなくてもつむじに視線を感じつつ、最後にレシートと一緒にお釣りを手渡すと。
「ありがとう」
その後すぐ口パクで『いってきます』と言って、相葉さんは自動ドアを擦り抜けていった。
そんな俺だけに向けられる些細な仕草が、嬉しくて堪らない。
ねぇ相葉さん。
本気の恋ってすごいね。
だってさ、こうして相葉さんに少しでも会えるだけで一日頑張れそうな気がするんだよ。
丁度レジに並ぶ客が途切れたのを見計らって、ジーンズのポケットを探る。
手探りで掴んだそれを手の平に取り、一度確認してまたぎゅっと握り締めた。
『にのの気持ちが決まったら来て』って言われて貰った、相葉さんちの合鍵。
一瞬また勘違いしちゃだめだってグラついたけど、もうそんなこと言ってる場合じゃないって。
相葉さんを好きな自分を信じて、相葉さんを信じて飛び込めばいいんだから。
「…おかえり」
練習と思って小さく呟いてみたら思いの外恥ずかしくて。
すぐにポケットに鍵を押し込むと、赤くなる顔を堪えてレジ対応に励んだ。
…今日は待っててね、相葉さん。
end
