例えばこんな日常
第23章 absolute obedience/OM
数秒合わせていた唇をゆっくり離すと、至近距離にある瞼が震えながら開けられて。
やけに潤んだ黒目が揺れながら俺を見つめる。
さっきまでの動揺した眼差しとは違う、完全に欲情の色を帯びたそれ。
何にも知らないクセに色気だけは一人前だからまたおもしれぇんだ。
「…ちょっと口開けてみ?」
視線を外さずに囁けば、目の前の唇が従順に薄く開かれ。
舌を出しながらそれに吸い付き、そのまま薄く開いた口内に進入していく。
「んっ…」
普段から少し高めの声だけど、キスの時にコイツから漏れる声はより一層色っぽい。
昨日教えてやったディープなやつをまたかましてやれば、それに応えようと懸命に舌を絡ませてくる。
まるで忠犬だな。
長いふわっとした黒髪のてっぺんに耳が生えてそうだ。
それにふさふさな尻尾も揺らしたりしてな。
角度を変えながらのキスの最中、そんなどうでもいいことを考えていた矢先。
っ…!?
突然両肩をがしっと掴まれ思わず目を開ければ。
次の瞬間、再び軽い衝撃と視界いっぱいに松潤の顔が。
俺を見下ろす形のその顔は、今まで見たことないくらい猛烈な色気を帯びていて。
前に垂れ下がった髪が細かに揺れ、降り注いでくるような息遣いと。
熱っぽく潤んだ余裕のない眼差しを向けられ、ただただその目に捕われて体が動かない。
なんだこれ。
なんだコイツ。
コイツ…
こんな顔すんのか。
「…大野さんっ、俺っ…」
更にぎゅっと肩を押さえ込まれ、柔らかい芝生に体が沈んでいく。
そのままぐっと唇を結んだ目は何か言いたげに揺れていて。
…ついにその気になっちまったか。
いや、させちまったな。
参ったなぁ、どうす…
「っ…!?」
ぼんやり耽っていたそんな思考は一瞬で飛んでいった。
ぶつけるようなコイツからのキスにまた目を見開いてしまって。
無我夢中って言葉が当て嵌まるようながむしゃらなキス。
本能のままに求められるようなそんな感じ。
「っ、はっ、大野さっ、」
「ふっ、んっ…待て、って」
いつの間にか肩じゃなくて手首を取られ、芝生に両手を押さえ付けられていて。