例えばこんな日常
第23章 absolute obedience/OM
校舎に囲まれたこの中庭。
その中でも特にここ、大きな木の下の芝生スペースには誰も立ち入らない。
だってここは俺の場所だから。
コイツと初めてここで会った時はまぁまぁ驚いたな。
こんな世間知らずなヤツこの学校に居んだなって。
けど今となってはあの時コイツを退学にさせなくて良かった。
だってこんなおもしれぇヤツ初めてだもん。
芝生に向かい合って座る。
猫背で胡座を組む俺とは反対に、正座で膝に拳を握る松潤。
ごくっと息を呑んでじっと見つめてくるその顔は真っ赤に染まってて。
おい、そんなガチガチになんなよ。
ただのキスだろ。
そんな緊張してどうすんだ。
「…いいぞ、ほれ」
「っ、はい…」
緩く瞼を閉じて気持ち顎を上げてやる。
そっと近づいて来る気配がしたと思えば、控え目にちょんと合わさった唇。
昨日と全く同じそれに思わず笑いが込み上げてきた。
「…お前マジでヘタクソだな」
「っ、だってっ…」
「教えてやったろ、昨日」
こんな派手な顔しといてキスは小学生みてぇだなんて残念すぎんだろ。
まるでじいちゃんのほっぺにチューする孫みてぇだぞ。
「こうやってやんだよ。ほら、目閉じろ」
そう言えばすぐにギュッと目を閉じてピシッと姿勢を正すけど。
「バカ届かねぇんだよ、足崩せ」
おでこをペチっと叩くと慌てて正座が崩された。
胡座で向かい合い、ほぼ同じ位置になった松潤の形の良い唇に焦点を合わせ。
何も言わずに顔を傾けて、ゆっくりと俺のそれを押し当てた。
しっとりと馴染む感触。
初めてキスした時から思ってたけど、コイツの唇は無駄に柔らかくて気持ち良い。
男の唇なんてイイもんじゃねぇだろって思ってたのに、コイツに限ってはそうでもないみたいで。
けどコイツからのキスは果てしなくヘタクソだからな。
キスはするよりされる方が気持ち良いような気がすんだ、俺は。
どうせやるなら気持ち良い方がいいだろ。
だからコイツにはしっかり教え込まねぇと。