
例えばこんな日常
第25章 君が好きだと叫びたい/SO
予鈴と共にざわざわと席に着きだす教室。
俺はみんなみたいに慌てなくてもずっと座ってるから。
合間の中休みはやることがあるし。
ガラッとドアの開く音と先生の『号令』という声。
ガタガタと席を立つみんなに紛れるように、俺も静かに椅子から立ち上がった。
誰にも言えない俺の秘密。
誰にも知られてはいけない俺の秘密。
クラスメイトの…
櫻井くんが好きだっていうこと。
今日も数列先、斜め前に座る端正な顔立ちを覗き見て。
描きかけの小さなスケッチブックをパタリと閉じた。
櫻井翔くん。
初めて同じクラスになった一年の時からずっと、俺の心の中は櫻井くんでいっぱいで。
黒縁眼鏡の地味な俺とは違って、いつも爽やかな笑顔でクラスを明るくしている櫻井くん。
優しくてカッコ良くて、二年になってまだ間もないのに櫻井くんの周りには常に数人の友達が居る。
俺はと言えば、窓際の隅っこの自分の席で一人で過ごすのが日課。
自分でもはっきりと自覚している程、地味で暗いヤツ。
そんな俺が恋してしまった相手が櫻井くんだなんて。
こんなにも共通点のない人を好きになってしまうだなんて。
きっと櫻井くんの視界には俺なんか映ってやしない。
この眼差しが交差することはないって分かってるから。
だから…
こうしてずっとずっと、斜め後ろから櫻井くんのことを見つめ続けてるんだ。
俺には向けられることはない視線。
でも、そのかわり。
こっそりとさっき閉じたスケッチブックを開いてみる。
そこには、爽やかな笑みを浮かべる櫻井くんの鉛筆画。
まだ描きかけのそれは、輪郭をぼんやりと象っているだけ。
だけど一番最初に描くその瞳は、しっかりと俺を見てくれていて。
我ながら危ないヤツ。
でもいいんだ。
誰に何を言われる訳でもない。
このことは誰にも知られてはいないんだから。
俺は…
密かに櫻井くんに恋をし続けてるだけなんだから。
