例えばこんな日常
第30章 答え合わせ/AN
「え、同い年なの?」
新入社員の歓迎会と称されたいつも通りの飲み会。
もちろん主役は千葉真奈美の後任として配属されたこの平田であるが、隣に座る誠治も言うなれば新入社員の一人ということになる。
気心の知れた仲間との宴も終盤。
平田と誠治は座敷の面々と離れたカウンター席で酒を交わしていた。
「意外。てっきり年下かと思ってたんだけど」
「ふふっ、よく言われる。いまだに高校生と間違えられんだわ俺」
「あ~確かに!」
「なわけないじゃん、納得すんなよ」
あからさまに怪訝な表情でグラスを煽る誠治に、平田は苦笑いを浮かべながらそれに倣った。
平田が大悦土木に配属されて一週間余り。
そこの現場監督を任された平田だが、以前の業務と掛け離れた日常に気遅れする毎日だった。
そんな中、同時期にアルバイトから正社員になった誠治の存在は平田にとっては心の拠り所で。
「もう慣れた?ここ」
「ん~…まだ来たばっかりだしね。分からないことがあり過ぎて」
「まぁ最初はね。いいんだって、分かんないことあったら職長に聞いたらいいんだから。あの人ああ見えてすげぇ優しいし」
会社は違えど働く環境は同じ。
ゼネコンの平田にも分け隔てなく接してくれる大悦土木の職人達の雰囲気も然ることながら。
「基本厳しい人だけどね。俺なんか何回怒られたかな。帰れって言われたこともあったわ」
「へぇ…武くんもそんな時期あったんだ」
「まぁ…つーか誠治でいいよ。ここのみんなそう呼んでる」
小鉢のきんぴらを口に放りながら緩く笑う目元。
「じゃあ…誠治」
「ん。いやそいでさ、」
ガードが堅いのかと思いきや、口を開けば酒も手伝ってか意外に饒舌で。
この誠治の持つ同い年とは思えない容姿と特有の人間臭さに、平田はいつしか同期の枠を超えた感情を抱き始めていた。
と同時に、その感情のやり場はどこにもないことも気付いていたのだ。
なぜならば誠治は前任だった千葉真奈美に好意を抱いている。
そこまでしっかりと会話もしていなかったこの期間。
しかし平田は誠治の素振りから何となくそれを感じ取っていた。
この想いはきっと報われない。
平田にとっての誠治は特別であったが、誠治にとっての平田はただの同僚の一人に過ぎなかった。