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例えばこんな日常

第30章 答え合わせ/AN





平田のその呟きに時が止まる。


「え、あかりちゃんって…事務の…?」

「そう、哲平と付き合ってる。だからあかりちゃんは諦めろって」

「……ごめん、えっと…じゃあ誠治は誰と付き合ってんの?」

「俺?俺は誰もいねぇよっ」


吐き捨てるように投げた誠治のセリフ。
平田は混乱する頭を何とか整理して自分の犯した勘違いに青ざめた。


「えっウソ!うわっ俺…!」

「つーか何で千葉が出てくんだよ。アイツ今頃向こうでどっかのゼネコン野郎とよろしくやってるよ」


面倒臭そうに続けた誠治は、ヘルメットを片手に同じくゼネコン野郎平田の横を通り過ぎた。


そして事務所を出る間際に振り返り、立ち尽くす背中に向かって一言。


「ぁ…さっきのさ、考えとく。俺も勘違いしてたから」


"じゃお疲れ"と手を挙げて出て行った誠治の表情は平田には知る由もなかった。



***



「…っての覚えてる?」


年末恒例の忘年会。
場所はもちろん大悦土木御用達のいつもの居酒屋。


出会った当初を懐かしむカウンター席の二人の背中からは、当時はなかった新密度が窺えた。


「覚えてる覚えてる。あの時のお前の顔今でも思い出して笑うもん」

「やめろっ、俺の一世一代の告白を!」


平田が照れ隠しにビールを煽ったのを茶化しながら見つめる誠治。
誠治もまた、あの時勘違いしていた自分への照れ隠しのつもりで続いてビールを煽った。


「ていうかさ、気付いてたんだよねあの時って。俺の気持ち」

「は?何のこと?」

「またそうやってとぼけるし。探り入れたんでしょ?あかりちゃん使って」

「くは、何言ってんのお前。そんなわけねぇじゃん」


誠治の胸の内は誠治にしか分からない。
しかし、平田は信じて疑わなかった。


あの時誠治が自分に見せた表情は嘘偽りないものだと。
そこまで会話をしていなかったあの期間でさえ、平田にはそう映ったのだから。


「ま、いいけどさ。ねぇ今度の休み空いてる?
付き合ってほしいとこあるんだけど」

「え、どこ?俺原付しかないけど」

「いいよ迎えに行く、車で」

「じゃあ行ってやってもいい」

「なんだよそれっ!」



平田にとっての誠治は特別であった。


そして。


誠治にとっての平田はただの同僚の一人であり、今や特別な存在でもある。



end

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