例えばこんな日常
第6章 ありがとう/ON
ぼんやりした視界にふいに現れては消えるその姿。
加湿器の蒸気か、鍋の湯気か。
それとも俺の目が眩んでるせいか。
とにかく体が、顔が熱い。
頭がガンガンする。
ソファに横たわり毛布を肩まで掛けてぼーっとキッチンを見ていると、陶器の小さなボウルを熱そうに両手に持ってこっちへ歩いてくる。
「大野さん、ほら、おかゆ。起きれる?」
テーブルにコトっと置いたそれには、真ん中に赤い大きめの梅干しが乗っていた。
「…ん、ありがと」
体を起こそうとしても力が入らない。
「あぁやっぱ無理ね。いいよ、俺やるから」
にのが俺の肩口に腕を差し込み、ゆっくりと体を起こしてくれた。
一瞬頭がぐわんと回ってぎゅっと目を瞑ると、小さく"大丈夫?"と添えながら肩を摩ってくれる。
「食べれる?」
「ん…」
「熱いから気をつけてよ」
そう言うとまたキッチンに戻るにのをぼんやり目で追い、おかゆが入ったボウルにつけられたスプーンに手を伸ばした。
ふうっと息を吹きかけて、ちょびっと掬って口に運ぶ。
熱いからって言ってたけど俺には丁度良くて。
味付けも何もかもに、にのの優しさが詰まってるみたいで。