例えばこんな日常
第6章 ありがとう/ON
あ…
弱ってる時って涙腺も弱くなんだな。
おかゆの真ん中にある赤がじんわり滲んでくる。
「…どしたの?」
マグカップを持って戻ってきたにのが、俯いてスプーンを運ぶ俺を覗き込みながら投げかける。
目が合うと一瞬驚いたように目を見開いて、すぐふわっと笑った。
「…そんなに美味しかった?」
「ん…」
「…そりゃよかった」
「…にの、」
このフワフワした頭と体も、ぼんやりと映る視界も。
ぜんぶ熱のせいだから。
けど…これだけは。
「ありがと…」
いつも、そばにいてくれて。
俺のこと、わかってくれて。
ほんとに…ありがとう。
「…ふふ、どういたしまして」
テーブルに頬杖をついた少し得意げなその笑顔。
これからもずっと…
隣で見てていいかな、俺。
「ほら冷めるよ、食べたらこれ飲んで」
促しながら小さな粉薬の袋を目の前に振って、またにのはキッチンへと立ち上がる。
「にの、」
振り向いたその顔が、あまりにも可愛かったから。
「ありがと…大好き」
素直に出た言葉に自分でも驚いていると。
「…知ってる、そんなの」
そう言って、また得意げに笑ってくれた。
…この赤い顔は、きっと熱のせい。
end