例えばこんな日常
第7章 99.9%難しい恋/MO
《99.9%難しい恋のはじまり》
バリッとしたスーツに身を包んで、いつものように石神の運転で自社へ向かう。
車窓から流れる景色を横目に、助手席の村沖から今日の予定を告げられる。
「…それから、本日からうちの顧問弁護士になる方がご挨拶にお見えになります」
「…今日から?」
「はい」
静かに答える村沖に理由を問うと、どうやら今までの弁護士は俺のことが気に入らなかったらしい。
回りくどく言ってくれなくても、そんなヤツこっちから願い下げだ。
というかそもそもこっちが契約してあげてるのになんだその理由は。
弁護士なんか他にいくらでもいる。
「社長、今回はくれぐれも…」
「なんだ?」
「いえ…もうこれで三人目ですので、」
そこまで言うと顔をこちらに振り向いてジッと俺を見つめる。
…なんだよ。
わかってるよ。
その視線に耐えられず、ふいっと窓の外に目をやった。
企画戦略部の社員たちが挨拶する前を通り、社長室に向かおうとしたその時。
ん…?
ドアの向こうになにか違和感を感じて、急いでドアレバーを引いて中に入ると。
「っ、お前誰だっ!」
メダカの水槽の前で、両手を広げて張り付くようにして見入る男の後ろ姿。
ゆっくり振り返ったソイツは、俺の怒鳴り声に動じることなく口を開いた。